日本経済の動向

日本経済の動向
2021年4月 No.527

問われる官民のカーボンニュートラル戦略 脱炭素競争の号砲

4月22日(地球の日、アースデイ)に予定される地球温暖化対策を巡る気候サミット。主催するのはバイデン米国大統領だ。11月には第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が英国グラスゴーで開催される。2021年度は脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速する一年となる。今回は、日本の脱炭素戦略について考察する。

脱炭素が日本の成長戦略の主軸に

昨年10月末の所信表明演説で2050年の脱炭素化を表明した菅首相。政府は12月末に「経済と環境の好循環」を作るための産業政策として「グリーン成長戦略」を策定した。戦略では温室効果ガス(CO2)排出の8割以上を占めるエネルギー分野での取り組みが特に重要としつつ、今後成長が期待される産業としてエネルギー、輸送・製造、家庭・オフィスの3部門における14の重点分野を明示した。

図表 成長が期待される14分野(グリーン成長戦略)

エネルギー 洋上風力 導入目標:2030年までに10GW、2040年までに最大45GW。
国内調達比率目標:2040年に60%
アンモニア 2030年までにアンモニア20%混焼を実現
水素 2030年に消費量300万t(最大)、2050年に2,000万t
原子力 小型の新型炉開発(SMR)で国際連携
輸送・産業 自動車・蓄電池 2030年代半ばまでに乗用車新車販売を電動車100%
半導体・情報通信 パワー半導体の消費電力を2030年に半減
船舶 2050年までに水素等の代替燃料に転換
物流・人流・土木インフラ 港湾等の脱炭素化
食料・農林水産 2050年までに農林水産業のCO2排出ゼロに
農地、森林・木材、海洋における炭素の大量貯蔵
航空機 ハイブリッド電動化・全電動化や代替燃料の技術開発
カーボンリサイクル 既存品並みまでコスト低減
家庭・オフィス 住宅・建築物、次世代太陽光 2030年度までに新築の排出量平均ゼロ
資源循環 バイオマス等を活用、リサイクル技術の高度化
ライフスタイル 地域の脱炭素ビジネス推進

(出所)経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」より、みずほ銀行産業調査部作成

分野ごとに具体的な目標を設定しており、その達成に向けて政策を総動員することになる。

目標達成に向けて鍵となるのは、エネルギー部門では再生エネルギーの普及となろう。折しも2021年夏には3年に一度のエネルギー基本計画の改定が予定されており、エネルギー電源構成(エネルギーミックス)の目標見直しが行われる。輸送・製造部門では電気自動車などの電動化技術、脱炭素に向けた中核的技術である水素関連技術、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization, and Storage、二酸化炭素の回収・有効利用・貯留)などでの技術革新が焦点となると考えられる。家庭・オフィス部門では建物の省エネ化が重要だ。建物のエネルギー効率に関する基準を設定し、飛躍的に高めていく必要がある。新築だけでなく、既存建物の改修(リノベーション)促進や、建築資材の回収と再利用も論点となってくるだろう。

脱炭素に向けた国際協調と国際競争

もちろん、脱炭素を成長の原動力にしようとする動きは日本だけではない。先行する欧州だけでなく、米国や中国なども含めて、各国・各地域が脱炭素を目指す戦略や投資計画を発表している。2021年は気候変動に対する問題意識が世界の主要国で共有され、脱炭素の実現に向けた政治的なコミットメントと各国の協調姿勢が確認される年になる。世界が共通の目標に向けて具体的に歩み出すことになるが、その実現に向けた過程では各国が協調ばかりではなく、脱炭素技術の開発・実用化を巡り競争・競合せざるを得ないことには注意が必要だ。

変わるゲームのルールと事業環境

海外の主要国では脱炭素に向けて、技術開発の支援、大規模な投資促進、各種補助金といった経済的な支援(「アメ」)だけでなく、排出量取引などの規制・基準の強化(「ムチ」)を組み合わせている。

注目されるのはカーボンプライシング、すなわち、排出する炭素量に対して一定の価格を付け、排出削減に要するコストと比較することで排出削減を促進させるメカニズムだ。本格導入されている欧州だけでなく、主要国で関連する政策が実施されている。「炭素税」という形での課税や「排出量取引制度」が中心だが、欧州では地域間の炭素価格差を調整する「炭素国境調整」(規制の緩い国からの輸入に対して課税し、域内でのグリーン投資に充当させるもの)の検討すら始まっている。こうした「ムチ」は短期的には企業のコストアップにつながるものだが、日本でも、国際的な潮流や中長期的な産業・企業の競争力維持の観点から、何らかの形での導入が検討される可能性がある。

日本のCO2排出量は世界全体の4%弱にとどまるが、世界の30%弱を占める中国をはじめ、巨大な「脱炭素市場」が世界に広がっていると考えることもできる。脱炭素市場でデファクト・スタンダードを確立できれば大きなビジネスチャンスにもなる。脱炭素戦略は日本の経済・産業の競争力の上でも不可欠なものだが、業種や規模を問わず、あらゆる企業にとっての重要な経営課題ともなってこよう。

 

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