経済動向

経済動向
2021年4月 No.527

役所任せのインフラ管理から脱却する時代に

土木構造物の老朽化が進むなか、これまで通りのやり方で維持管理を続けることは難しくなっている。例えば、維持管理の担い手である自治体などは人手や予算が大幅に不足しているケースが多い。こうした苦境を脱するための方策の1つがこれまでとは違う担い手の発掘や維持管理を合理化できるテクノロジーの導入だ。

橋やトンネルといった土木インフラの老朽化における最大の課題は、対処すべき業務量が膨大な点にある。既に、道路の維持補修費として投じている費用は、生産年齢に該当する人口1人当たり、平均で年間3万円以上に及んでいる。生産年齢人口の少ない県で、数字が膨れ上がる傾向にある。最も高かった秋田県では約7万8,000円に達していた。

この先、老朽インフラの量は確実に増えていく。何も対策を講じなければ、この数字はもっと大きくなり、これまで以上に予算の手当が難しくなる可能性が高い。現状でも、18年度に完了した1巡目の定期点検において、早めの手当が必要な健全度ⅢやⅣと判定されたインフラの補修は、十分に進んでいない。

道路施設を例に挙げると、最も対策が進んでいる国土交通省の施設で、健全度ⅢやⅣと判定された施設の3割は2019年度末時点で手つかずの状態にある。都道府県でも同時期に修繕などに着手できていない施設が過半を占め、市区町村の施設に至っては7割以上が未着手の状態となっている。

役所が直営で修繕まで手掛ける 地域住民を維持管理の担い手に

膨大なインフラの維持管理を限られた予算で着実に進めていくために、独自の取り組みで乗り切ろうとするインフラ管理者も現れ始めている。維持管理業務の直営化はその一例だ。

例えば熊本県玉名市は、橋の清掃や補修を市の職員が手掛けている。メンテナンスに携わる職員数は5人。清掃のほか、漏水部の修繕や断面修復、橋面防水といった作業をこなしている。さらに同市では、地元の建設会社に、補修工事を分離発注する取り組みも進めている。随意契約の仕組みを活用できるようにして、発注業務の効率化も図った。

同市はこうした取り組みによって、健全度Ⅲと判定されていた橋の8割を直営や分離発注の取り組みで完了させている。

インフラを利用している住民の力を借りて、維持管理の効率化を図ろうという取り組みも広がっている。福島県平田村では、草刈りなどの活動に併せて、橋の清掃や点検を住民に委ねている。村が管理するほぼ全ての橋で、住民が維持管理に関与しているのだ。住民は、橋の劣化状況などを分かりやすく示したチェックシートを用いて、橋の状態を確認。点検結果はホームページで「橋マップ」として掲示している。

市民の力を活用する動きを、テクノロジーの力を借りて加速させている取り組みも拡大しつつある。代表例は道路の不具合などを市民がスマートフォンなどで報告する取り組みだ。写真や位置情報を市民が投稿して、道路の異常を管理者に報告するので、道路の不具合などを早期に見つけて手当をしやすくなる。

インフラ管理の合理化に向けた工夫や技術には、まだまだ大きな可能性が眠っている。この市場を狙うプレーヤーは少なくない。インフラを知り尽くした建設のプレーヤーがそうしたチャンスをものにできるかが問われている。

国や都道府県、市区町村などの道路修繕の完了率。2019年度末時点における健全度ⅢとⅣの修繕措置状況を示す。国土交通省の資料を基に作成

 

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