経済動向

経済動向
2021年2月 No.525

RCEPにより東アジアで誕生する巨大な自由貿易圏

「地域的な包括的経済連携(RCEP)」協定が2020年11月15日に東アジアの加盟15カ国によって署名され、今後は発効に向けた各国の国内承認手続きを待つことになる。21年はRCEPが発効する年になることが期待されている。そこで今回は、RCEPの概要を解説するとともに、その意義について考察する。

世界の経済、人口の約3割を占めるRCEP

RCEPは東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国と、日本、中国、韓国、オーストラリア(豪州)、ニュージーランド(NZ)の5カ国の計15カ国が参加する経済連携協定(EPA)だ。15カ国を合計すれば、経済規模(GDP)は約26兆ドルに、人口は約23億人にも達する。経済規模、人口の何れで見ても、世界の約3割を占める巨大な自由貿易圏が誕生することになる。

振り返れば、2012年11月の交渉立ち上げ合意を受け、13年5月に交渉開始、7年半を経て合意に漕ぎつけたことになる。なお、インドについては国内で強い反対があり、交渉の最終段階で離脱を余儀なくされた。域内有数の大国であるインドが離脱したことの経済的な損失は大きく、また、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現を目指し、インドとの関係強化を図ってきた日本にとっては痛手でもある。今後については、「ASEAN10カ国のうち6カ国」かつ「他の5カ国のうち3カ国」の国内承認手続きを経てRCEPは正式に発効することになっており、21年中の発効が期待されている。

RCEP協定は物品貿易、サービス貿易、投資の自由化や政府調達、知的財産、電子商取引のルールなどを定めたものであり、自由化のルールは世界貿易機関(WTO)におけるルール水準に比べればかなり高いものとなっている。一方で、TPP(環太平洋パートナーシップ)で規定されていた国有企業、環境、労働、規制の整合性については定めがない。また、政府調達に関する規定では中央政府機関のみを対象としており、地方政府機関などは含まれておらず、政府調達市場の自由化も含まれていない。RCEPが「WTO以上、TPP未満」と言われるゆえんである。

自由貿易の旗手としての日本の重要性

日本にとってRCEPは、中韓両国との初めてのEPAでもある。RCEP参加15カ国間でEPAが締結されていなかったのは日中間、日韓間のみであり、アジア太平洋地域のサプライチェーンにおける大きな欠落(ミッシング・リンク)となっていた。RCEPはこの欠落を埋める。

RCEPにおける関税撤廃率は、15カ国全体で91%(品目数ベース、以下同様)となっている。日本の関税撤廃率は、ASEAN・豪州・NZ向けが88%、中国向けが86%、韓国向けが81%である。他の14カ国の対日関税撤廃率はASEAN・豪州・NZが86~100%、中国が86%、韓国が83%となっている。関税の撤廃は20年単位の長期にわたって進むものだが、東アジア域内での貿易促進上の意義は小さくない。企業としては、モノの関税の撤廃だけでなく、原産地規則や、サービス貿易・投資の自由化などのRCEPの規定に添って、域内での投資、生産、物流戦略を再点検していくことが求められよう。

日本は安倍前政権の下で、成長戦略の要としてEPA/FTA戦略を積極的に推進してきた。既に「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」(TPP11)、日EUのEPAといったメガFTAを実現させてきた。RCEPが発効すれば、日本の貿易におけるFTA(自由貿易協定)カバー率は輸出で約6割、輸入で7割弱まで拡大し、日本経済にとっても大きな追い風となる。

(注)2019年実績。CPTPPは発効済みの6カ国のみ。英国は現在、日EU・EPAとして発効済み。
(資料)財務省貿易統計より、みずほ総合研究所作成

また、近年、米中対立が常態化しつつある中、RCEPが日中経済関係の安定化と日中間のビジネスの予見可能性の向上に資することも期待される。さらに、グローバルに見ても、米トランプ政権下での米中、米欧摩擦の激化、英国のEU(欧州連合)から離脱など、自由貿易が危機に晒される中で、日本がリーダーシップを発揮する形で巨大な自由貿易圏が成立することは、世界的にも意味を持つものと評価したい。

 

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