経済動向

経済動向
2020年12・2021年1月 No.524

菅政権が進める国際金融都市戦略

菅政権が進める成長戦略の一つに「国際金融都市の実現」がある。首相は2020年10月26日の所信表明演説でも、「海外の金融人材を受け入れ、アジア、さらには世界の国際金融センターを目指す」ことをあらためて表明した。国際金融都市は政府の成長戦略会議でも主要論点の一つとして挙げられている。そこで今回は、菅政権が進める国際金融都市戦略について解説する。

今なぜ「国際金融都市」なのか

日本ではこれまでも何度となく国際金融センター機能を強化する議論や提言が行われてきた。金融の自由化、国際化が進展した1980年代の後半、第2次橋本政権の下で「日本版ビッグバン」が提唱された1990年代後半、第1次安倍政権の下で「アジアゲートウェイ構想」が打ち出された2000年代後半のことだ。しかし、そうした試みは平成バブル崩壊、アジア通貨危機と不良債権問題、そして世界金融危機によって頓挫してきた歴史がある。

近年では2010年代の半ば以降、第2次安倍政権でアベノミクスの成長戦略の一つとして取り上げられ、日本にとっては「4度目の挑戦」である。東京都をはじめとする関係者の積極的な取り組みの成果として、東京の評価は着実に上がりつつある。英国のシンクタンクZ/Yenグループが発表する国際金融センター指数のランキングで、東京は世界第4位になっている(2020年9月、図表)。

(注)評価点は定量、定性評価に基づく英国Z/Yenグループによる点数
(資料)英国Z/Yenグループの資料より、みずほ総合研究所作成

ここにきて議論が盛んになってきていることの背景は二点ある。第一に、6月末に施行された香港国家安全維持法を契機として、在香港の金融機関や金融人材の受け皿として各国の都市が競う格好になっている。第二に、リスクの分散と地方創生がある。東京の一極集中リスクが意識される中で、菅政権の下では東京だけでなく、大阪や福岡などの主要都市が国際金融都市機能を有することによって、一極集中リスクを回避し、同時に地域経済活性化の起爆剤となることが期待されている。

国際金融都市の機能強化には何が必要か

国際金融都市の競争力を決める要素としてはビジネス環境、人的資源、インフラ、金融・関連産業(会計・法務など)の発展、都市としての魅力・評価がある。東京は国際金融センター指数のランキングでインフラ第3位、都市の魅力・評価第5位と、国際的にそれなりに評価されているが、ビジネス環境は第13位と劣位にある。

ビジネス環境については、規制改革・緩和を進め、行政手続きなどのデジタル化・英語化を推進していくことが急務である。一本化された窓口(ワンストップ)で、オンラインでの手続きが完了する(トータル)、デジタルファーストの対応が望ましい。もちろん、英語での対応が必要だ。法人税や相続税などでの単純な税率の優遇は内外無差別の観点からは容易ではないかもしれないが、海外の金融人材にとって支障となっている点については見直しを行っていくことも求められよう。海外人材の受け入れの上では教育や医療での英語対応や複数の家事使用人の受け入れなど、生活機環面での支援も必要である。

しかし、こうした環境整備は必要条件かもしれないが、十分条件にはならない。国際金融都市機能を強化する上で何よりも重要なことは、日本の経済と金融・資本市場を活性化することである。企業の設備投資や合併・買収(M&A)が活発化し、個人の金融資産が安全資産からリスク性資産に向かうようになれば、海外の金融プレーヤーは自ずと日本の市場に注目し、重視するようになるはずだ。

金融は実体経済の鏡であり、金融と経済は表裏一体だ。日本の強みは金融を支え、金融を必要とする産業と企業の集積であり、潤沢な家計資産の存在である。金融機能のユーザーである企業や家計に資する戦略、言い換えれば経済の成長戦略の実践なくしては、国際金融都市の機能強化策は画餅に帰すことになるだろう。

 

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