経済動向

経済動向
2020年12・2021年1月 No.524

土木と建築で市況の明暗分かれる

2019年度に期末を迎えた建設会社の決算は、これまでの旺盛な工事受注を受け、好調な数字をはじき出していた。2020年度も堅調な推移が期待されていたが、新型コロナウイルスの影響が影を落とし始めている。ただ、その様相は建築分野と土木分野で随分と異なる。

2020年に世界中に広がった新型コロナウイルスショック。建設産業も決して例外ではない。これまで市場を支えてきた東京五輪関連の事業が一段落するタイミングに襲いかかった新型コロナウイルスの影響は、特に建築分野で大きな影を落としつつある。

建築雑誌の日経アーキテクチュアが2020年6月から7月にかけて、建築設計事務所に対して2020年度決算における業績への影響を尋ねたところ、約75%が「悪い影響がある」または「どちらかといえば悪い影響がある」と答えた。

設計・監理業務の売り上げ見通しを尋ねたアンケートの結果を見ると、その詳細が浮き彫りになる。商業施設や生産施設、事務所(オフィス)の設計・監理売上高が減少すると見込む設計事務所が、それぞれ3分の1を超えていたからだ。増加を見込んでいた設計事務所は、商業施設で10%、生産施設で14%、事務所で21%にとどまっていた。

この見通しは工事発注の先行見通しとも読み取れるので、商業施設や生産施設、事務所といった建築工事の市場が、これから落ち込む可能性を示唆している。建築市場は今後、やや厳しい局面に立たされるだろう。

一方、土木については「影響が小さい」と見込む建設会社が多い。実際に、国内の公共土木事業については、発注が大幅に落ち込む恐れが小さいからだ。2020年9月に発表した2021年度予算の概算要求で、国土交通省は一般公共事業費と災害復旧の費用などを合わせた公共事業関係費を前年度の当初予算と同額に設定している。

国土強靱化への期待高まる仕事の奪い合いにリスク

そのうえで、新型コロナウイルス感染症への対応などに関連した予算を別枠で、事項要求した。2020年12月に入り、菅義偉首相は国土強靱化に関連する取り組みの加速を指示。5年間で15兆円規模の計画をまとめるよう指示している。

新型コロナウイルスがもたらした国内経済へのダメージを考慮すると、公共事業によって内需を下支えする意味は大きい。公共土木事業については、投資額の大幅な削減という選択が下される事態は考えにくい。

しかし、土木事業でも民間発注の工事は市況が厳しくなりそうだ。2020年度決算期における官公庁発注の工事と民間発注の工事の量について、日経コンストラクションが建設会社に見通しを尋ねたところ、官公庁案件については、増加と減少がそれぞれ20%程度で拮抗。横ばいと見込む会社が6割弱を占めていた。これに対して、民間工事については、増加を見込む会社が14%にとどまったのに対し、減少は26%まで広がった。

新型コロナウイルスの影響によって、鉄道会社では輸送人員が減少。売り上げが大幅に落ち込み、厳しい経営状況に追い込まれている。鉄道会社をはじめとする交通サービスに関する土木事業については、投資を抑制する方向に動いていくことは想像に難くない。

先ほど挙げた公共土木工事については量自体が大きく減少するリスクは小さいものの、受注競争が厳しくなる恐れはある。民間の建築や土木工事の発注が減ることによって、公共事業での仕事の奪い合いが生じる可能性があるからだ。その点では、公共土木の仕事も楽観視できるわけではない。

官公庁が発注する工事と民間が発注する工事について、建設会社に回答を求めた。有効回答数は86社

 

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