経済動向

経済動向
2020年11月号 No.523

日本経済回復の見通し

新型コロナウイルス感染拡大(以下、新型コロナ)に対応した緊急事態宣言発出を受けて、日本経済は2020年4~6月期に記録的な落ち込みを経験した。7~9月期以降は回復に向かうものの、その道筋は平坦ではないだろう。そこで今回は、日本経済の現状について整理するとともに、21年に向けた先行きを展望する。

景気回復はノコギリ型に

9月8日に発表された2020年4~6月期の実質GDP成長率(2次速報)は前期比▲7.9%となった。1次速報値の▲7.8%から小幅に下方修正され、日本経済が戦後最大の大きな落ち込みを経験したことがあらためて確認された。背景には、もちろん緊急事態宣言を受けて個人消費が大幅に減少したこと、世界的なロックダウンから輸出が急減したこと、そして収益悪化や不確実性増大から設備投資も落ち込んだことがある。なお、景気の落ち込みは、日本以上に厳しいロックダウンを強いられた米国(▲9.6%)やユーロ圏(▲12.1%)と比べれば、相対的には「まし」とみることができるかもしれない。

次の7~9月期は大幅な落ち込みの反動もあり、それなりの回復ペースとなるが、問題はその後だ。景気の回復は緩慢なものにとどまる可能性が高い。早ければ年内にもワクチン開発が見込まれているが、ワクチンの生産・接種体制が整うためにはそれなりの時間が必要だろう。ワクチンの効果や安全性への懸念も残る。21年にワクチンが普及し、経済活動を新型コロナ前のように安心して再開することは難しいのではないか。従って、当面は経済活動の再開に伴い感染が一定程度拡大し、経済活動は政府主導あるいは民間の自粛によって部分的に抑制されることになろう。その後、感染拡大に歯止めがかかれば、経済活動の本格的な再開が可能となる。当面はアクセルとブレーキを交互に踏まざるを得ず、景気の回復はノコギリの刃のようにジグザクとした形になるだろう。

水準回復には欧米よりも時間が必要

ノコギリ型の回復をたどらざるを得ないのは海外も同じである。実は中国経済はすでに、20年4~6月期に新型コロナ前の19年のGDP水準を回復しているが、主要先進国では21年末になっても水準回復は難しい。欧米では22年の半ば頃に19年の水準に達すると計算されるが、日本の場合は、残念ながらさらに時間がかかることになるだろう。現時点での見通しに基づけば、24年に入ってからと見込まれる。日本が欧米以上に、経済の回復に長い時間がかかるのは、経済成長の実力である潜在成長率、すなわち巡行速度での経済成長率が欧米よりも低位であるためだ。また、19年10月の消費増税の反動の影響によって、経済の発射台が低くなっていることも影響している。

確かに日本は、感染者数や死者数では、国際的にも新型コロナに上手く対処しているといえる。WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長がいう通り、「日本は成功例」であり、「日本は模範生」だろう。しかし、経済回復までに要する時間という観点からは、日本が最大の影響を受けることにもなりかねない。

8月末に安倍総理が辞意を表明し、9月に菅新政権が発足した。総理退陣は健康上の問題によるが、新型コロナへの対応が総理の心身を蝕んだ可能性もある。海外渡航が困難となり、得意の外交で成果をあげられないことが、支持率低下につながったことも考えられる。新型コロナは政局へも大きく影響を与えたといえるかもしれない。

新型コロナとの戦いは長期戦となる。新政権が新型コロナ対策とともに、景気刺激策、デジタル化の推進、地方創生や気候変動への対応など、諸課題に挑み、日本復興に向けて強いリーダーシップを発揮することを期待したい。

 

(注)網掛けは予測値。
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」より、みずほ総合研究所作成

 

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