経済動向

経済動向
2020年10月号 No.522

新型コロナウイルスと不動産市場

新型コロナウイルス感染拡大によって、全ての産業が影響を受けているが、不動産市場も例外ではない。不動産の売買は既に落ち込んでおり、今後、実体経済の下振れに伴い不動産価格や賃料が下落することが懸念されている。そこで今回は、新型コロナウイルスの不動産市場への影響について考察する。

ホテル、商業施設で深刻な影響

新型コロナウイルス感染拡大(以下、新型コロナ)を受けて、不動産売買が大きく落ち込んでいる。4月の緊急事態宣言を受けた営業活動や外出の自粛などから不動産の売買や仲介は激減、宣言が解除された5月以降の回復も緩やかなものにとどまっている。物件視察や売買交渉などが制約され、J-REIT(不動産投信信託)や外国人投資家の不動産取得も大幅に減少しているようだ。

また、売買の減少だけでなく、需給悪化から賃料も低下に転じている。賃料は不動産価格の先行指標として注目されるが、不動産の種類別に見たのが図表である。ホテルや店舗(商業施設)で大きく落ち込む一方で、事務所(オフィス)や倉庫は底堅く推移している。とりわけ、深刻なのがホテルである。インバウンド観光需要が「蒸発」しただけでなく、国内での日本人の需要激減が大きく影響している。宿泊業の売上構成ウェイトを試算してみると、訪日外国人が2割弱、国内客が4割、残りが宴会、婚礼、外販などとなっている。移動制限の緩和や政府のキャンペーン施策により、国内観光需要が緩やかに回復することが期待されるが、感染リスクが払拭されない中では楽観視できない。感染対策を施す必要があることから、供給面からも稼働率の引き上げには制約がある。

また、商業施設も大きな影響を受けている。緊急事態宣言が解除された後も、「三密」を避けるために、部分的な営業再開に留めざる得ないテナントは少なくない。映画館やフードコートなども大幅な稼働率低下を余儀なくされている。生活必需品関連では根強い需要が存在するし、給付金支給の特需も一部ではあるが、全体としては商業施設を取り巻く環境も厳しい。

今後のポイントはオフィス市場の行方だ。新型コロナ以前は賃料上昇、空室率低下を享受してきたが、その背景には堅調な景気と企業業績の拡大、労働市場のひっ迫を背景とした人材確保ニーズや業務の効率化ニーズがあった。それが新型コロナによって一変し、戦後最悪の景気後退、つるべ落としの業績悪化に見舞われ、人手不足感も緩和している。オフィスビル需要が一服し、空室率が上昇に転じることは避けられないだろう。もっとも、オフィス市場の深刻な調整は回避できるというのがメインシナリオである。景気は緩やかにせよ徐々に回復に向かうと見込まれる。金融機関による融資やファンドなどの不動産投資が大幅に細る事態には至っておらず、金融面からの調整圧力は強くない。ただし、ダウンサイドリスクがあることには引き続き留意が必要だ。

新型コロナによる不動産市場の質的変化

さらに、新型コロナによる不動産市場の構造的な変化にも留意する必要がある。新型コロナが契機となり、業種や職種によって格差はあるものの、テレワークの拡大が進んでいる。都心の好立地オフィスへの需要は底堅いと考えられるも、本社機能のあり方が見直され、必要床面積が全体としては減少する可能性がある。

一方で、ソーシャルディスタンスを確保する必要性、サテライトオフィスの拡充、また、多様な働き方を可能とするABW(Activity Based Working、仕事の内容や目的に応じて時間や場所を自由に選択する働き方)の拡大など、ワークスタイルの変革が不動産市場に量的変化だけでなく、質的変化をもたらす公算が大きい。新型コロナによる需要減は逆風とはなるが、ワークスタイルの変革がもたらす不動産の構造変化は戦略の見直しを迫るものであり、それは新たなビジネスチャンスにもなり得るだろう。

(注)消費税を除くベース。
(資料)日本銀行「企業向けサービス価格指数」より、みずほ総合研究所作成

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