経済動向

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2020年4月号 No.517

日本経済の動向 EU離脱後の英国はどこに向かうか ポスト・ブレグジット5つの注目点

2020年1月31日に英国が47年間加盟してきたEU(欧州連合)からついに離脱した。16年6月の国民投票での離脱決定以来、3年半続いた離脱を巡る混迷に取り敢えず終止符が打たれた。懸念された合意なき離脱が一応回避されたことは世界・日本経済にとって朗報だが、残念ながら先行きを巡る視界は晴れない。今回は、ポスト・ブレグジットの注目点を考える。

実質的な「合意なき離脱リスク」の残存

ポスト・ブレグジットの第1の注目点は、英国とEUの今後の経済的な連携の行方である。2020年末までの移行期間の間に、英国はEUと新たなFTA(自由貿易協定)締結に向けた交渉を進めることになるが、交渉の行方は決して楽観できない。

「英国が求める関税ゼロの範囲とそのための各種製品基準の収れん」「政府補助金のあり方」「税制、労働者保護、金融サービス、データ保護などでの規制のあり方」「漁業政策」など、交渉テーマは多岐にわたる。移行期間の期限は本年末に迫る。協定上は1年もしくは2年の期限延長を行うことが可能であるが、その際は6月末までに延長を決める必要がある。ジョンソン首相は延長を行わない方針であり、目先は6月末の延長実施の有無が焦点となる。現実的には延長の可能性が高いと思われるが、移行期間の終了時までにFTAが発効しなければ、英国とEUはWTO(世界貿易機関)の加盟国の関係でしかなくなり、関税が突如発生する。その際には「合意なき離脱」と実質的には変わらず、英国経済の先行きを巡る不透明感が再燃し、金融市場の混乱は避けられないだろう。

第2の注目点は、EU以外の国際社会との経済連携の行方である。移行期間終了により、日本とEU間の日EU経済連携協定(EPA)の対象から英国は外れる。日本は日英FTA交渉を進めていくことが急務である。加えて、将来的には英国のTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加も選択肢となろう。TPPにはオーストラリア、カナダ、マレーシアなど、英連邦に属している国や英国を旧宗主国とする国が多く、歴史的な繋がりが深い。日本にとっても、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を推進する上で、TPPでの英国との連携は有益なはずだ。

第3の注目点は、北アイルランドとスコットランドを巡る問題の行方である。ブレグジット後も、英領である北アイルランドは事実上、EUの関税同盟に残る方向にある。厳密な国境復活は回避される見込みだが、実務的な財の取引、課税のあり方は明らかになっていない。また、英国との一体性を重視するプロテスタント系住民と、アイルランドとの統一を重視するカトリック系の住民との対立が再燃するリスクもある。他方、EU残留が強く支持されたスコットランドでは、今後も独立を目指す動きがくすぶり続けるだろう。英国が安定性のある形で一体感を維持することができるかが問われてくる。

英国と欧州大陸の成長性の見極めが重要

第4の注目点は、英国とEUの今後の成長戦略のあり方である。そもそも英国がEU離脱を選択した一因には、EUの官僚主義、過剰規制、保護主義などに対する反発があった。また、EUが移民や極右政党の台頭、域内での格差・分断など、多くの課題を抱えていることも事実である。

言うまでもなく、英国は日本企業のグローバル展開、欧州展開において戦略的にも重要な拠点だ。海外に対する直接投資残高では、対英投資は約18兆円に達し、米国に次ぐ第2位。日本企業の拠点数は1,000弱と、欧州ではドイツに次いでいる。日本貿易振興機構(ジェトロ)が昨秋実施したアンケート調査によれば、在英日系企業の過半が、なかでも製造業では7割弱の企業が、EU離脱に伴う今後のマイナスの影響を懸念している。通関や物流の混乱やコストアップが警戒されているようだ。

一方で、4割弱の企業が影響は「わからない」と回答しており、先行きを見通すことができない状況を示唆する結果となっている。離脱後も英国が自由貿易を標榜し、規制緩和、法人税引き下げなどを進め、ビジネスフレンドリーな環境を維持・強化することができるかが、FTAの行方とともに問われてこよう。ブレグジット後の戦略を練る上では、英国とEUの中長期的な成長性を見極めていくことが必要となってくる。

最後に、第5の注目点として、ブレグジットのグローバル化への影響がある。ブレグジットには自国第一主義やポピュリズムを映じた側面があった。また、ヒト、モノ、カネの自由な移動を前提としたグローバリズムの後退を示唆するものと捉えることもできる。トランプ米国大統領の保護主義、米中貿易戦争などにより試練に直面するグローバル化への影響に、注意する必要がある。

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