建設経済の動向

建設経済の動向
2019年10月号 No.512

建設用3Dプリンター 生産プロセスを激変させる次代のツールに

建設現場を工場に変える――。i-Constructionの政策進展に伴い、そんな標語が現実味を帯びてきた。
ただ、現場の機械化で力を発揮するとみられながらも、国内での開発や取り組みが十分に進んでいない技術がある。建設用の3Dプリンターだ。実際のプロジェクトが動き始めるなど海外で先ゆく最新技術の動向を紹介する。

立体を“印刷”できる3Dプリンターで橋や住宅を造るプロジェクトが、海外で現実になり始めている。

例えばオランダでは、建設会社のバムインフラが、長さ29m、幅3.5mの5径間の自転車・歩行者橋を2019年内にナイメーヘン市内で建設する。既に部材を製作しており、3Dプリンターで製造した橋としては完成時に世界最長となる。セメント系の材料を用いて3Dプリンターで造形した桁などの部材を架橋地点まで運び、現地で組み立てる。桁の部材は鋼材でプレストレスを導入して一体化する設計だ。

他にも、建設用の3Dプリンターを用いたプロジェクトとしては、5階建ての集合住宅を建設した中国の事例や米国のベンチャー企業が24時間以内で小規模な住宅を建設した事例などが挙げられる。

材料の無駄をなくし環境負荷を軽減
設計図面があれば部材製作が容易に

ある米国の調査会社は、建設用の3Dプリンターの市場規模について、2027年に約4300億円規模になると試算している。建設用の3Dプリンターの市場がここまで伸びると考えられている理由はいくつかある。

一つは生産性の向上だ。3Dプリンターという機械による作業なので、人手を削減できるだけでなく、1日24時間、休みなく稼働させることも可能だ。稼働率が高まれば、従来の
方法に価格面で勝てる可能性が出てくる。

材料の無駄をなくし、環境負荷を低減することも大きな魅力だ。3Dプリンターであれば、曲面や内部に空洞が存在するような複雑な構造でも、容易に部材を編み出せる。この特性を生かせば従来の構造物に比べて使用材料を減らした合理的な設計を生み出せる可能性がある。

CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)をはじめとする3次元の設計データを施工にそのまま生かせる点も重要なポイントだ。設計図面を機械に読み込ませれば、部材を容易に作製できるようになり、生産システムの合理化を図れる。

国内では大手ゼネコンが開発進める
新しい構造物を実現できる可能性も

日本国内では、まだ建設用の3Dプリンターによる大規模なプロジェクトは動いていない。それでも、大手建設会社をはじめ、3Dプリンター技術の研究開発は着実に進ん
でいる。

大林組は小規模なアーチ橋を、3Dプリンターで製造。前田建設工業は自社の研究施設内に3Dプリンターを用いて喫煙所を構築した。いずれもセメント系の材料を用いている。構造物そのものではなく、複雑な形状を持つ型枠を3Dプリンターでつくり出した例もある。竹中工務店は凹凸や曲面といった複雑な形状に対応した樹脂型枠を造形し、実際の事業でも活用した。

ロボットや材料などは日本が得意とする技術領域だ。3Dプリンターはそうした強みを生かしやすい。建設分野でも、先に述べた構造合理性の他、維持管理しやすい構造物、自然環境や景観になじむ構造物など、新しい発想のインフラを生み出すことができれば、大きな革新をもたらす可能性がある。

セメント系材料の3Dプリンターを用いて、橋の部材を製造している様子(写真:BAM Infra)

 

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