日本経済の動向

日本経済の動向
2019年3月号 No.506

副業・兼業の普及の課題

働き方改革の議論において、柔軟な働き方がしやすい環境整備として、副業・兼業の普及促進を図ることがあげられている。これまでは副業・兼業を原則禁止としている企業が多かったと思われるが、今後はその見直しも求められよう。そこで今回は、副業・兼業の現状や、普及のための課題などについて解説する。

キャリア形成の選択肢としての副業・兼業

総務省の「就業構造基本調査」によれば、副業をしている就業者数は、2017年で270万人、就業者数全体に占める割合は4%にとどまっている(図1)。産業別では、1次産業(農林水産業)の副業者が減少する一方で、3次産業の副業者が増加している。

図1 副業者数・副業者比率の推移

これに対し、潜在的に副業・兼業を希望する就業者数は、2,200万人程度と試算される。そして、副業・兼業を希望する理由をみると、「収入を増やしたい」が最も多いが、これに次いで、「自分が活躍できる場を広げたい」、「様々な分野における人脈を構築したい」など、キャリアを広げたいとの理由が多い(図2)。副業・兼業は、デジタル化時代に必要なスキルの習得・実践が期待でき、キャリア形成の選択肢の一つともなる。
*「就業者数(約6,500万人)×副業をしていない割合(98.3%)1×副業をしたい割合(33.5%)2」により算出。なお、1・2はそれぞれ、労働政策研究・研修機構「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査」、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」による。

図2 副業・兼業を希望する理由

働き方改革の推進と業務の「見える化」が鍵

次に、希望者が副業・兼業を実施した場合の経済効果を試算すると、短期的効果として、賃金が1~2兆円増加し(図3)、GDPが0.1%程度押し上げられる。試算では、現状の副業・兼業許可(検討)企業割合を用いており、副業・兼業を容認する企業が増加すれば、さらに大きな効果が期待される。

図3 副業で追加的に増加する年収(試算)

副業・兼業の普及促進を考えるに当たっては、まず、それが収入確保やキャリア形成の「選択肢」となりつつある事実を認識すべきだ。そして、その普及のためには、本業側の働き方改革の推進と業務の「見える化」が不可欠である。働き方改革の一環として、テレワークの導入やフレキシブルな労働時間の設定が進めば、時間に制約がある副業・兼業者の就労を後押しすることになる。人手不足が深刻化するなか、さまざまな選択肢の拡大は労働市場の拡大にとっても不可欠な潮流となる。同時に、業務の「見える化」も重要なインフラになる。働き方に関する新たな発想が、2020年代を展望するにあたっての重要な課題だ。

 

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