経済動向

経済動向
2018年6月号 No.499

新興国経済見通しのポイント

新興国経済は2017年を通じて、世界的な景気改善を背景に、輸出主導で成長した。ただし、2018年については、中国経済の減速傾向、ITサイクルのピークアウト、さらに米国発の保護主義の動きの連鎖による輸出への影響といった不安要因がある。今回は、市場動向も踏まえ、新興国経済見通しのポイントについて解説する。

調整局面にある新興国市場

新興国市場は、2018年1月から2月にかけて大きく変化した。きっかけは18年初来の米国の長期金利の上昇であった。さらに、2月初から米国の株式市場が大幅な調整に入るなか、新興国株式市場でも調整が起きている(図1)

図1 新興国市場の概況

これまでの新興国市場に対する安心感の背景には、16年後半からの新興国への資金流入の継続があった。17年には、新興国への資金流入により新興国通貨が上昇し、株価もアジア各地で史上最高値を更新した。こうした好調な株価の背景には、世界全般のファンダメンタルズの持ち直しがあったが、同時に新興国への資金流入が続くことも、高株価のサポート要因だった。
これに対し、18年初来の米国の長期金利の上昇や、利上げの加速で新興国の通貨安不安が強くなり、2月以降新興国からの資金流出が続いた(図2)。その後、米国の金利上昇は止まったが、今度は米国発の保護主義への不安が高まっているため、輸出を通じた実体経済への不安が新たに生じた状況にある。新興国からの資金流出には引き続き警戒を要するといえよう。

図2 新興国への資金流入状況推移

リスクマネーの積み上がりと引き揚げの懸念

今後留意が必要なのは、これまで新興国に流入していた大量のリスクマネーの存在である。新興国の外貨建て債務状況の推移は図3の通りである。米国で金融緩和が始まった2008年以降、新興国に向かった資金の積み上がりは、直接投資を除いても4兆ドルを上回っており、そのうち銀行貸出と債券の発行で調達されたドル建て資金の残高は、約2兆ドル増加している。従って、今後の米国の利上げでドル高圧力が過度に意識された場合に、引き揚げの対象になりうる資金が大量に存在することになる。

図3 新興国の外貨建て債務状況の推移

新興国経済は世界経済の好調さに支えられており、海外環境への依存が高いため、足元で生じた保護主義の動きが、世界の貿易に与える影響にも留意が必要だ。新興国経済は、今後の世界経済を占う「炭鉱のカナリア」のごとく、その行方に注目が必要といえよう。

 

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