日本経済の動向

日本経済の動向
2023年12月・2024年1月 No.554

新規加盟で影響力を増す「BRICS+6」

2023年8月のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)首脳会議において、新たに6カ国(アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE))の新規加盟が決まった。そこで今回は、拡大する「BRICS+6」の成長性と、各国の結びつきを理解する上でカギとなる貿易に焦点を当てて、整理・確認する。

人口大国で構成されるBRICS+6

BRICS+6の成長性を見るうえで、まずは人口規模がポイントとなる。BRICS+6は、人口が多い国が多く、市場規模の視点からは、世界経済への影響力が大きい。

現状では、人口14億人超のインドと中国という、世界第1位・第2位の人口超大国をはじめ、ブラジルやロシアも人口の世界ランキングのトップ10に入る規模を誇る。BRICS+6合計では、現在37億人規模で、国連の推計では、2030年にはインドが15億人を超すほか、新加盟国のエチオピアもトップ10入りする見込みとなっている。さらに国連の予測によれば、11カ国合計で50年までに40億人程度に増加するとみられ、G7(先進国主要7カ国)の人口が、少子化により8億人弱とほぼ横ばいであるのに比べ、大きな潜在力を持っていることがわかる。

もっとも、人口の年成長率をみると、BRICS原加盟5カ国では、今後徐々に伸びが低下し、人口が頭打ちとなり、50年までには人口の伸びはマイナスに転じる。対照的に、今回参加した6カ国は、中東やアフリカなどの高い人口増加率が見込める経済圏に属する国も多く、50年にも人口はプラス成長を維持する見込みだ。

 

経済規模はEUを超え、日米英加合計に迫る

次に、BRICS+6の経済的な影響力を、世界のGDP(国内総生産)に占めるシェアで見てみよう。国際通貨基金(IMF)のデータでは、名目GDPの米ドル換算ベースでは、BRICS+6は2010年代前半すでに欧州連合(EU)を超えている。BRICS+6は今後も高い経済成長率が見込まれており、28年までに、G7のうちEU加盟国以外の日本・米国・英国・カナダ4カ国合計に迫り、世界シェアで3割超の経済規模となることが見込まれている。

 

物価を考慮すると経済規模はさらに拡大

もっとも、上記の名目ドルベースでは、市場で取引される為替レートの変動による影響が大きく、また各国の物価水準の違いなどが完全に反映されているわけではない。特に、G7や欧州などの先進国と新興国の価格差を比較するのはそれほど容易ではない。

そこで、特定の国で一定の価格で買える商品が、他国で換算するといくらで買えるかを示す理論的な交換レート、すなわち購買力の比率(「購買力平価」(PPP))で価格差をならして比較することも、長期的な経済規模を比較するという観点からは参考になる。このPPPベースで計算したGDPの比較では、BRICS+6はすでに2000年代、EUを凌駕していた。また、10年代半ばには世界経済の3分の1を占める規模に到達し、G7をも上回っていた。今後も経済規模の拡大が続き、BRICS+6は、28年には世界シェアの38%超にまで成長することが予想されており、人口のみならず経済力も拡大が続く。

 

各国で高い輸入依存度

ただし、人口や経済の規模だけでは、BRICS+6の枠組みの本質を理解することは難しい。そこで、最もわかりやすいBRICS+6の結びつきの姿として、各国の貿易を通じた相互依存の強さを見てみる。2022年もしくは21年の貿易データで確認できる範囲では、各国の輸入金額(再輸入を含めるベース)に占める他のBRICS+6からの輸入依存度が高いことがわかる。BRICS+6に対する輸入依存度は、エチオピアの52%を筆頭に、アルゼンチン47%、エジプトとサウジアラビアが40%、南アフリカとブラジルが38%、インド37%、UAE33%と続く。貿易額が大きく、かつ構造も複雑な中国(15%)や、ウクライナ侵攻前の21年が公式データとなっているロシア(29%)を除けば、基本として多くのBRICS+6において、相互依存関係が極めて強い。さらに、経済制裁を受けているイランの取得可能データでは、UAEと中国の2カ国からの輸入が半分を占めている。この点から、BRICS+6は貿易関係の緊密さも考慮した経済グループであるともいえる。なお、輸出面で見ると、各国は資源輸出国であるケースもあり、BRICS+6への依存度は16%程度と、それほど高い状況ではないが、それでも米国向け輸出シェア(13%)よりも高い。

増加する人口と、拡大する経済規模、さらには貿易での相互依存関係を考慮すると、BRICSの加盟国拡大はごく自然の流れと理解できよう。

 

【冊子PDFはこちら

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら