建設経済の動向

建設経済の動向
2023年10月号 No.552

性の多様性拡大に伴い議論百出のトイレ問題

性の多様性に対する社会認識が広がる中、トイレの在り方が問われている。最高裁判所が性同一性障害の職員に対するトイレ利用の制限を違法とした判決を下す一方、完成したばかりの東急歌舞伎町タワーに設けた「ジェンダーレストイレ」には批判が殺到。廃止に追い込まれた。これからのトイレの在り方を探る。

トイレの在り方に社会的な注目が集まっている。例えば、東京・新宿に完成した東急歌舞伎町タワーに設置された「ジェンダーレストイレ」。「性別に関係なく利用できる」トイレで、性的マイノリティーを含めた性の多様性の時代を映し出す意欲的な取り組みであったものの、SNS(交流サイト)でその利用に伴う不安など批判が殺到し、2023年4月14日の供用開始から数週間で暫定的な区画設置に追い込まれ、最終的には普通の男女別のトイレに変更された。

一方、性同一性障害の経済産業省職員が女性用トイレの使用制限を受けてきたことを巡り、最高裁判所が23年7月に国の対応を違法とする判決を下した。性的マイノリティーに配慮したトイレ整備自体は、社会からの要請として受け止める必要がある。

歌舞伎町タワーにおける挑戦は、失敗に終わったものの、あらゆる性別の利用者が使いやすいオールジェンダートイレの整備は少しずつ広がり始めている。

国際基督教大学(ICU)が改修したトイレはその代表例だ。同大学では校舎の一角にオールジェンダートイレを設置。ジェンダー教育の一環として位置付けている。

大便器は全て男女共用の個室で、手洗いも個室内に併設する。男性用小便器も全て個室に配している。個室の扉は天井まで立ち上げ、のぞき見の防止や遮音性能の向上を図った。さらに、大便器を置く個室は4つの個室を90度ずつずらした風車型に配し、出入り口が離れるよう工夫している。紙巻き器の音が聞こえにくくなるので、トイレ使用時の音も気になりにくくなる。

オールジェンダートイレの整備後にICUが学生にアンケートを実施したところ、利用者の約6割は「満足」、約3割が「普通」と評価した。

 

4つの種類に分けられる
犯罪対策も不可欠に

オールジェンダートイレには、一定の傾向がある。男女の区画をどう行うかと個室をどう配置するかの2点から4つのタイプに分けられる。

男女の区画については、「あり」「なし」で区分けできる。個室の配置は男女区画がない場合は「並列型」か「回遊型」となる。区画がある場合は、男女のトイレとは別に設置するパターンと、男女の各トイレ内に「誰でもトイレ」の格好で配置するパターンとに分けられる。

男女区画がないケースにおいて採用事例が目立つのが、並列型だ。異性がトイレ使用時に顔を合わせるといった、利用時にこれまでとは違う面があるものの、トイレに割く面積は抑えやすい。これに対して回遊型は、利用者同士が顔を合わせにくくなるような動線を確保しやすい半面、トイレ内通路のスペースが大きくなるので、空間に余裕がなければ採用しにくい。

男女共用トイレは個室形式なので、男性が一般的な小便器を利用する場合に比べて利用時間が長くなりがちだ。トイレ利用者が多い施設で十分な数を設けられない場合、安易に採用すると利用者の利便性を損ねる恐れがある。この点には注意が必要だ。

この他、性別を問わずに利用できるトイレを配置する場合には、わいせつ行為といった犯罪にも十分な注意が要る。この点については、男女別のトイレに付加する格好でオールジェンダートイレを整備することが、当面の対策として有効だと考えられる。

 

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