日本経済の動向

日本経済の動向
2023年7・8月号 No.550

米国の大統領選挙を占う3つのポイント

米国で2024年の大統領選挙への動きが活発化している。民主党のバイデン大統領が再選を目指す一方で、共和党では返り咲きを狙うトランプ前大統領などが、バイデン氏への挑戦権を得るべく、党の指名候補の座を争っている。今回は、外交政策の変化などを通じ、日本や世界にも大きな影響を与え得る米国の大統領選挙について、バイデン氏の再選の行方を占うポイントを紹介する。

大統領選挙への長い道のり

米国の大統領選挙は、4年に1回の頻度で行われる。投票日は「11月の第一月曜日の次の火曜日」と決められており、2024年の大統領選挙は11月5日が投票日である。投票日までには1年以上あるが、近年の大統領選挙は足掛け約2年に及ぶ長い戦いだ。

選挙戦の始まりは早い。現職で民主党のバイデン大統領は、23年4月25日に出馬を正式に表明し、再選を目指している。バイデン氏に対抗する共和党では、さらに早くから選挙戦が始まっている。共和党の候補がバイデン氏に挑戦するためには、まず予備選挙を勝ち抜いて、党の指名候補の座を獲得する必要がある。返り咲きを目指すトランプ前大統領は、バイデン氏より5カ月以上早い22年11月15日に、出馬を表明している。

バイデン氏に現職有利の追い風

再選を目指すバイデン氏にとって心強いのは、米国の大統領選挙が、再選を目指す現職大統領に有利であるという歴史だ。バイデン氏に先立つ45代の大統領のうち、党の指名候補になりながら、再選に失敗した大統領は11人しかいない。バイデン氏がこの現職有利の歴史を再現できるかどうかを占うには、3つのポイントがある。

第一に、党の結束だ。現職大統領が有利である一因は、早々に党内の支持をまとめやすく、対立政党の候補者のように、予備選挙に資金や時間を費やす必要がない点にある。1980年の選挙で再選に失敗した民主党のカーター元大統領や、同じく92年に再選を逃した共和党のブッシュ(父)元大統領は、党内をまとめることができず、予備選挙で有力候補と戦っている。

バイデン氏に対しては、民主党内から有力な対抗馬が出てくる兆しはない。無難に党の指名候補に決まる可能性が高く、第一の条件はクリアしていると言えそうだ。

第二のポイントは、経済の動向である。現職が再選を目指す選挙は、それまでの任期の信任投票の性格を帯びやすい。投票が行われる年の経済成長率が高いほど、現職にとっては有利になる。

2023年6月初めの段階では、バイデン氏の支持率は40%台で低迷している。しかし、過去の経験則からは、たとえ支持率が低い大統領でも、ある程度の成長率を実現できれば、再選されやすくなる。バージニア大学の試算によれば、過去の成長率と勝敗の相関関係が維持されるとすれば、バイデン氏の支持率が40%台前半で低迷を続けたとしても、24年第2四半期の実質経済成長率が1%台前半を超えれば、再選の条件をクリアできるという。

カギを握るリーダーシップへの評価

第三のポイントは、バイデン氏に過去の大統領と異質の弱点があるかどうかだ。再選を果たした過去の大統領と異なる弱点があれば、党の結束を維持し、一定の経済成長率を確保できたとしても、現職有利の再現は難しくなる。

懸念材料として指摘されやすいのは、バイデン氏の高齢だ。バイデン氏が再選された場合、二期目の任期が終わる2029年1月には86歳になる。今年の4月末から5月にかけて米国で実施された世論調査では、約7割がバイデン氏は「再選には高齢過ぎる」と答えており、メンタル面でのシャープさや体力面での懸念を指摘する回答が過半数を占めていた。

もちろん、政治家は年齢だけで判断されるわけではない。実際に、トランプ氏もバイデン氏より4歳若いだけだが、世論調査で高齢を懸念する回答はそれほど多くない。

むしろ注意する必要があるのは、バイデン氏の「高齢懸念」の裏側に、より本質的な弱点が隠れている可能性である。バイデン氏とトランプ氏で高齢への懸念の度合いが異なる背景には、リーダーシップに対する評価が影響している気配がある。トランプ氏への評価はさまざまだが、少なくとも共和党の支持者は「強いリーダーである」というイメージを持っている。対するバイデン氏の場合、リーダーシップの強さを評価する声は目立たず、とくに経済運営の手腕については、バイデン氏より大統領時代のトランプ氏に軍配を上げる割合が多い。

バイデン氏が現職優位を再現するためには、特に経済運営での実績を有権者にアピールし、「何かやってくれそうだ」というリーダーシップへの期待を立て直す必要がありそうだ。

 

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