建設経済の動向

建設経済の動向
2023年7・8月号 No.550

建設業界にも押し寄せる生成AIの大波

ChatGPTをはじめとする生成AIが世間で大きな話題になっている。自然な言葉で質問を投げかけると、流ちょうな文章で回答を返してくれる。さらには、言葉による命令や依頼を受けて、画像も生み出す。建設業界の大手企業では、生成AIの業務利用を認める会社も現れている。生成AIをめぐる建設業界の動向を解説する。

言葉で質問を投げかければ、会話するように答えてくれる生成AI(人工知能)。ChatGPTに代表される対話型AIや、Midjourney(ミッドジャーニー)といった画像生成AIを、ビジネスにどう生かすのかが、大きな話題になっている。他の産業に比べて生成AIに対する認知度が低い建設業界でも、これらのツールとの付き合い方を考え始める組織は着実に増えている。

日経アーキテクチュアでは、2023年5月12日時点における生成AIの業務利用状況を、主要な設計事務所20社、建設会社20社、住宅会社15社にアンケート。26社から回答を得た。その結果、生成AIの業務利用を従業員に「認めている」という会社は、回答企業の27%を占めた。さらに、「対象者や業務内容を限定して認めている」という回答は12%となり、合計4割弱の企業が、何らかの形で生成AIの業務利用を認めていた。

大手ゼネコンでは、大成建設や大林組、竹中工務店が業務利用を認めるグループに入った。大成建設では、米MicrosoftのAzure OpenAI Serviceを利用した社内版ChatGPTの導入準備を進めているという。画像生成AIでは、大林組が米SRI Internationalと共同で建物の外観デザインを作成できる「AiCorb」を開発済みだ。

一方、生成AIの業務利用を「禁止している」企業は15%だった。半数弱の46%は「特に方針を示していない」という状況だ。大手ゼネコンでは、鹿島が利用を禁止。アンケート時点で「特に方針を示していない」と回答していた清水建設も、後に禁止にかじを切った。

業務利用については、そのルールづくりも急速に進みつつある。ルールの作成状況を尋ねたところ、「作成済み」が24%、「今後作成する予定」が64%と、回答企業の9割弱がルールの必要性を認識していた。

 

業務効率化や提案書作成に
建設向けのサービスが続々誕生

では、生成AIを業務利用する際のメリットはどこにあるのか。また、デメリットとして何が考えられるのか。アンケートでは、期待と懸念点についても選択肢を提示。複数回答(3つまで)で選んでもらう格好で尋ねた。まずは期待する項目を見てみる。

最も期待が大きかったのが、「書類や議事録の作成など日常業務の効率化」で回答者の9割強に達した。これに続いたのが「情報収集の効率化」(65%)、「技術提案書などの作成効率化」(35%)だった。

生成AIの業務活用において最も懸念されたのが「AIが作成した情報の信頼性不足」と「自社のノウハウや機密情報、個人情報の漏えい」で、いずれも回答者の85%に及んだ。「顧客から提供を受けた機密情報や個人情報の漏えい」(50%)がこれらに続いている。

大手企業以外にも生成AIの裾野が広がりそうな兆しも出てきている。生成AIを使った建設分野向けのサービスが続々と誕生しているからだ。例えば、将棋AIで名を上げたHEROZ。対話型AIのChatGPTに建設関連法規や社内基準などを追加で学習させて、個別の企業向けにカスタマイズしたサービスを提案している。

東京大学発のスタートアップ企業である燈(東京都文京区)は、建設業に特化させた大規模言語モデル「AKARI Construction LLM」の提供を2023年3月に始めた。対話形式での議事録や図面などの検索や、仕様書の文章生成などが可能になる。情報の正確さを確認しやすくなるように、引用元のデータも表示する。

生成AIの業務活用の動きは加速しているが、著作権などの扱いは、まだ議論が十分にまとまっていない。AIの学習段階での著作物使用は比較的ハードルが低いものの、利用段階では慎重な取り扱いが要る。業務活用では、こうした動きも注視しなければならない。

 

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