建設経済の動向

建設経済の動向
2022年12月・2023年1月 No.544

出口が見えない資材価格の高騰

コンクリートや木材、鋼材などの価格がここ2年ほどで大幅に上昇した。原料価格に値下がりの傾向が出てきた資材も存在するものの、短期的には元の価格に戻る要素はほとんど見当たらない。材料価格の動向を解説するとともに、資材価格の高騰を招いている背景をひも解きながら、今後の情勢を見通してみた。

コンクリートに欠かせないセメント。その主原料となる石灰石は国内自給率100%を誇る工業資源だ。輸入に頼らない材料が中核材料となるコンクリートは、価格の面で安定した“優等生建材”だった。だが、そのコンクリートの価格が急激に上昇している。例えば、東京17区での生コンクリートの現場持ち込み価格は、この2年ほどで約25%も上昇した(2022年10月時点)。

東京17区の生コンクリート(強度18N/mm2、スランプ18cm、粗骨材最小寸法25mm)の価格推移(資料:建設物価調査会の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)

価格上昇の主因は石炭価格の上昇だ。原材料となる石灰石が自給できても、石灰石からセメントを製造する際には焼成の工程が欠かせない。この工程で大量の石炭が必要になる。セメント1tを製造するのに、石炭約130kgを要するのだ。21年夏ごろと22年夏の石炭価格を比べると、5倍程度に膨れ上がっている。

その結果、大手セメントメーカーがセメント価格の値上げを打ち出した。太平洋セメントでは、1t当たり3,000円の値上げか、石炭価格の変動をセメント価格に反映する「サーチャージ制度」のいずれかを選んでもらうよう改めた。

ただ、このサーチャージ制度、買い手からの評価は芳しくない。主要な買い手である生コン会社は、出荷よりも前に締結した契約時の価格で取り引きするため、逐次変動する価格を、簡単には転嫁できないからだ。しかも、最近は石炭価格の高騰に、円安の影響も重なり、目先の値上がりリスクが大きくなっている。

需給安定の木材も今は高止まり
鋼材も価格の大幅下落は期待薄

住宅建設などに欠かせない木材価格も高止まりが続いている。需給逼迫の状況は緩和され、在庫の状況も安定してきたにもかかわらずだ。例えば、22年9月時点のスギ乾燥材価格は、1m3当たり12万円弱。21年初頭まではこの半額程度であり、価格は依然、高い水準にある。価格高騰時に調達した木材を加工して出荷している段階にあるのが、価格が下がらない一因だ。当面は高値で調達した原材料を使ううえに、住宅需要も比較的堅調なので、急速な価格低下は見込みにくいだろう。

2020年10月以降の木材価格の推移(資料:農林水産省の木材価格統計調査を基に日経アーキテクチュアが作成)

鋼材の価格も高い水準を保っている。建設物価調査会のデータによると、H形鋼(SS400、200×100mm、東京)は、22年10月に1t当たり12.4万円に達した。20年10月の価格と比べれば約7割も高い。異形棒鋼も同様の高値を維持した状況にある。

目先では、鉄鉱石や鉄スクラップの価格が下落しているものの、燃料費や電気代などの製造コストが上がっている。そのため、原料価格の下落に見合うような大幅な値下げは考えにくい。約2年前の水準まで戻す可能性は低いとみるのが妥当だ。

原材料や燃料の価格が高騰する影響は、主要構造材だけでなく、内装材や外装材、建築設備などにも及んでいる。21年から2度目や3度目の価格改定に至ったメーカーも多い。今後、建物や構造物の建設コストは確実に上昇し、価格転嫁も進んでいくだろう。

一方、価格の変動がかなり急速なので、事業費に及ぼす影響も大きい。そもそもの事業自体を見直すような動きにつながっていく可能性もある。資材価格の高騰が、建設市場を停滞させるリスクも現実味を帯びつつある。

 

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