日本経済の動向

日本経済の動向
2022年11月号 No.543

コロナ後の世界経済の変化

ワクチンや経口治療薬の普及で、世界は徐々に、新型コロナウイルス感染症との共生に向けて歩みを進めている。コロナ禍は世界経済に大きな影響をもたらしているが、今後はどのような変化があるのだろうか。そこで今回は、コロナ禍対策の世界経済への影響や、コロナとの共生が進んだ先の変化の可能性について解説する。

世界は徐々にコロナとの共生による出口へ

2020年以降、世界は新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)との戦いを続けてきた。そして、徐々にだが、出口に向かいつつあるようだ。発症予防効果のあるワクチンや、重症化防止効果のある経口治療薬の普及により、コロナによる病床のひっ迫、それに伴う死亡リスクが20年当初よりも低減されたことが大きい。

コロナ自体は変異をしながら感染再拡大と縮小の波を繰り返しているものの、米国や欧州では既にコロナへの警戒レベルを下げる動きが出て来ている。例えば米国では、疫病対策センターが6フィート(2メートル弱)の距離の維持(ソーシャルディスタンス)を、今後は勧告しないという措置を8月に発表した。フランスでは、8月にマスク防疫規制を解除したほか、外国人の入国時にワクチン接種証明書などの書類提出を不要とするなど、入国規制緩和を行った。このような動きがまだ進んでいない新興国などにおいても、今後徐々に同様の対応がなされるのではないか。

コロナが根絶したわけではないが、世界はコロナとの共生を図りながら、出口を模索している状況だ。

世界経済はコロナ禍対策の副作用に苦しむ

世界はコロナとの戦いからの出口に徐々に向かっているが、世界経済はコロナ禍当初に実施された経済対策措置の副作用に苦しんでいる。20年にはコロナ対策として、各国で厳しい活動制限が行われ、世界経済はマイナス成長に陥った。当時は世界経済の底割れを防ぐため、過去にない規模で家計への現金給付などの財政支援措置、更に金融緩和措置が取られることになった。その効果もあり、21年の世界経済は回復した。

一方でこうした支援措置は、副作用としてグローバルインフレを引き起こす一因になった。コロナ禍での政府の現金給付措置が消費者の消費余力を増やす一方で、コロナにより労働者や工場の活動が制限され、供給制約が発生したことで、需要が供給を上回り、インフレ圧力として働くことになった。さらにロシアによる原油・ガスなどの資源供給制限がインフレを加速させた。

インフレを抑えるためには、需要を抑える必要があり、米国などでは金融緩和から引締めに政策転換を行った。また、コロナ禍当初に実施された大規模な財政対策はあくまで一時的で、財政支出の規模は、今後各国とも前年比で伸びが鈍化、あるいは縮小するだろう。こうした金融政策や財政政策の変化は、それ自身が狙いでもあるのだが、需要の下押し圧力となる。それらも踏まえて、みずほリサーチ&テクノロジーズでは、23年にかけて、欧米の景気後退を予測している。

出口の先はコロナ前とは異なる世界の可能性

コロナ禍対策の副作用に苦しんでいるのが目下の世界経済だが、副作用の影響が一服したその先はどうなるのだろうか。不確実性が高く明確なことはいえないが、少なくともいくつかの点で不可逆的な変化が起こり、コロナ前の世界には戻らない可能性がある。紙面の関係で2点だけ取り上げたい。

1つ目は働き方の変化だ。コロナ禍で半強制的にソーシャルディスタンスが求められ、その結果として世界各国でリモートワークが急速に普及・促進した。足元では揺り戻しの動きはあるものの、完全にはコロナ前の状況には戻らないだろう。

2つ目は各国の安定調達・自立化の動きだ。コロナ禍で生じた供給制約は、ロシアの動きも相まって、各国の安定調達への意識を高めることになった。端的な例として、風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーは、エネルギーの自立化という点で、投資が加速し普及が進むのではないか。

上述の変化は、経済の目線では、短中期ではコスト増による成長阻害要因になる可能性がある一方、中長期ではイノベーションの機会となり、成長を促進する期待もある。企業にとっても同様で、上述の動きは脅威でもあるが、事業機会にもつながるだろう。外部環境の変化や不確実性に臆することなく、どん欲に事業機会ととらえる日本企業が増え、ひいては日本経済の成長に繋がることを期待したい。

 

【冊子PDFはこちら

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら