建設経済の動向

建設経済の動向
2022年11月号 No.543

政策誘導の賃上げは持続できるのか

政府主導の賃上げを推進するために、公共事業で賃上げ企業を優遇する措置が講じられている。賃上げの実施を表明した会社に対して、総合評価落札方式の入札で加点するのだ。政策誘導の効果はてきめんで、建設会社や建設コンサルタント会社の賃上げが加速している。ただし、制度依存の賃上げは危うさも内包する。

日本経済の復活に向けて欠かせない「賃上げ」。民間企業の賃上げを後押しする一手として、国が掲げたのは、賃上げ企業への入札優遇策だ。

例えば、資本金が1億円を超える大企業であれば、前年度比で1人当たり給与を3%以上増やすと表明した場合に総合評価落札方式の入札で加点する。中小企業であれば、従業員の給与総額や1人当たり給与を1.5%以上引き上げると表明すればよい。

表明した時点で加点される仕組みなので、実際に給与を上げない会社が出てくる恐れがある。そこで、所定の賃上げを達成できなかった企業に対しては、ペナルティーを科す。賃上げ表明で受けた加点以上の点数を減点されてしまうのだ。

この入札優遇策が企業の利益にどの程度影響を及ぼすのか。日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門の山田英司理事が、ゼネコン最大手4社の有価証券報告書で試算してみたところ、3%の賃上げが営業利益を押し下げる割合は1.6〜3%にとどまった。ただし、外注先の技能者の労務費を3%引き上げる場合には、影響は大きくなる。外注の技能者の賃上げに伴う営業利益の減少割合は、4〜6%に達した。つまり、社員と外注先の技能者に対して3%の賃上げを実行する場合には、営業利益は6〜9%も下振れしてしまうのだ。

この制度に対して建設会社などが不安に感じているのは、賃上げに伴う入札での加点措置がいつまで続くのかという点だ。現状の制度が続く限り、毎年賃上げを繰り返さないと入札での加点メリットは享受し続けられない。ロシアによるウクライナ侵攻が加速させたエネルギー価格の上昇やコロナウイルスの感染拡大がもたらしたサプライチェーンの混乱、急激な円安などが追い打ちをかける建設資材の高騰など、建設コストを取り巻く環境は厳しくなっている。この仕組み自体が、民間企業側のさらなる体力勝負を促す側面も持っているのだ。

賃上げ加点なしでは落札困難
建設コンサルでも賃上げ競争に

大手建設会社に対して日経コンストラクションが2022年の賃上げの取り組みを調査したところ、ベースアップを図る企業が数多く存在した。定期昇給だけでは給与の増加幅が2%程度にとどまるので、3%以上の賃上げ達成には、ベースアップが必要なのだ。

国の思惑通り、入札優遇策による賃上げは着実に効果を上げている。国土交通省関東地方整備局の一般土木工事の入札結果65件を集計したところ、延べ297の参加者のうち、約7割が賃上げ加点を受けていた。加点された会社と加点を受けていない会社が混在する入札のうち、加点企業が落札した割合は8割を超えている。

しかも、辞退や無効を除いて2社以上が参加した入札50件のうち、加点企業が落札した43件を見ると、落札企業の加点がなければ、失注していたケースは44%に及んだ。賃上げ加点が入札においていかに大きな役割を占めているかは、この集計結果だけでも十分に伝わってくる。

賃上げに突き進むのは建設会社だけではない。建設コンサルタント会社も続々と賃上げを表明している。

建設コンサルタント業務についても、国交省関東地方整備局が開札した土木関係の建設コンサルタント業務について入札結果を調査した。賃上げ加点を受けて落札していたケースについて、辞退や無効を除いて複数の会社が競った入札を分析してみると、落札企業の7割弱が、加点がなければ次点の建設コンサルタントに負けていた。賃上げ加点なしに入札で勝ち残る難しさを物語っている。こちらも賃上げによる体力勝負という近未来を予測させる点は建設会社と同じ状況にある。

日本建設情報総合センターの「入札情報サービス」で、国土交通省関東地方整備局が2022年4月1日〜6月15日に開札した一般土木工事の入札を抽出。賃上げ加点の対象となった65件の結果を日経コンストラクションが集計した。「辞退」や「無効」の会社は、入札参加者から除いた

 

【冊子PDFはこちら

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら