建設経済の動向

建設経済の動向
2022年10月 No.542

道路活用を起点とした都市改造が加速

道路を起点とした新しい街づくりが全国で始まっている。車ではなく、人を中心にした「ウォーカブル」な街づくりだ。道路占用の対象としてテーブルや露店を認め、道路を人が集い、くつろげる空間へと改める。歩行者の回遊性を高め、交流を促すような道路の改変は、沿道の建築にも波及、新たな街づくりを促すはずだ。

少子高齢化、地方の衰退など課題山積の日本。重要課題の1つが都市改造だ。特に都心部での道路を含めた街づくりが大きな転換期を迎えている。従来の自動車優先の街づくりから、歩行者を重視した都市への改変が全国で始まりつつある。

歩行者を増やす取り組みで期待できることは少なくない。街を回遊する歩行者を増やせば、その街における経済活動や社会活動が促進されて、街が活性化する。いわゆるシャッター商店街のような問題の解消が見込めるのだ。さらに、歩行を促す社会は健康寿命の増進にもつながる。増大する医療費の抑制という効用も得られる可能性が高まるわけだ。

歩きやすい街づくりについては、2015年に京都市中心部の主要道である四条通で車道の一部を歩道化する取り組みが始まるなど、一部の地域で進んできた。中心市街地などで歩行者が歩きやすく、そして心地よく過ごせる空間づくりが全国に広がる大きな転機となったのは、2020年に実施された2つの法改正だ。

1つは改正道路法。「歩行者利便増進道路」(通称:ほこみち)の制度をもたらした。道路管理者が歩行者利便増進道路を指定する。道路を歩行者にとって魅力的とするために、従来であれば基本的に道路占用が認められなかったテーブルや広告塔、露店などを占用物件として許可できるようにした。最長で20年間の占用が可能だ。

もう1つは改正都市再生特別措置法だ。市町村が都市再生整備計画区域の中に「滞在快適性等向上区域」(通称、まちなかウォーカブル区域)を設定して運用する。快適に滞在できるまちをつくるための事業に対する助成措置や税制優遇などを講じられるようにした。

ほこみち制度の概要を示す。国土交通省の資料を基に日経アーキテクチュアが作成

東西の大通りをつなぐ池袋
姫路では大通りにくつろげる空間

歩行者を重視した街づくりが全国で動き始めるなかで目立つのが、駅を含めた街の改変だ。

例えば東京・池袋。4社8路線が乗り入れ、世界第3位の乗降客数を誇る池袋駅を核として、駅東西の大通りを歩きやすく、人が滞在しやすくなる空間に再構築する。具体的には、東口の目抜き通りである「グリーン大通り」と西口の「アゼリア通り」を駅の地下を通る連絡通路やデッキでつなぐ。西口再開発では、アゼリア通りの一部を含めた広場を設置し、駅から抜ける地下空間をサンクンガーデンとして整備する。乗降客数に比べて街を回遊する人が少ないという課題の解決を図る狙いだ。東京都豊島区が、2022年1月に構想を発表した。

兵庫県姫路市では、JR姫路駅から姫路城まで延びる約830mの大手前通りの両側に備えた幅約16mの自転車歩行者道を、人が滞留するにぎわいの空間に変える取り組みを進めている。市は2021年2月に大手前通りを歩行者利便増進道路に指定。他方、沿道の事業者有志が集まった「大手前みらい会議」は、歩道にベンチなどを置き、飲食や休憩ができる空間として活用する社会実験を通して効果を確かめた。結果、沿道店舗の売り上げや歩行者の滞在時間は増加した。

道路の使い手の主役を車から歩行者へ変える街づくりが促す経済活動は、沿道の建物の魅力を高める動きを後押しする。官民連携による魅力的な街づくりが期待できるというわけだ。

 

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