経済動向

経済動向
2022年9月 No.541

公共事業の質を変えた安倍政権

延べ8年8カ月に及んだ安倍晋三政権。特に第2次安倍内閣以降の7年8カ月で同政権が建設産業にもたらした影響は大きい。看板政策であるアベノミクスで「機動的な財政政策」が掲げられ、積極的な公共投資を進めたという印象は強いものの、安倍政権が公共事業を変えた点は、予算という量の面よりも、むしろ質の方だった。

アベノミクス3本の矢の1本である「機動的な財政政策」。代表する施策が国土強靱化だ。第2次安倍晋三内閣の発足時に初代国土強靱化担当大臣を任命するほど力を入れていた。政策の推進に当たり、2013年からは国土強靱化担当大臣の下に設置したナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会を開催。国土強靱化を実現する施策をまとめている。こうした議論と歩調を合わせ、13年12月には議員立法で国土強靱化基本法が成立。14年6月には国土強靱化基本計画が閣議決定された。

同法成立後、公共事業では国土強靱化を図るための防災事業が目立つようになった。公共事業を伴う国土強靱化を推進してきた印象から、安倍政権下では公共事業投資が大幅に増加したと考える人は珍しくない。しかし、現実は異なる。安倍氏が首相に返り咲いた直後の予算を除けば、安倍政権下における当初予算の公共事業関係費は抑制的であった。

第2次安倍内閣の発足当初こそ、内閣発足直前に起こった中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故などを受けて12年度補正予算で2.4兆円を計上したり、13年度の当初予算を前年度比約15%増の5.3兆円まで増やしたりした。しかし、その後の当初予算では公共事業関係費を積み増していない。公共事業関係費の当初予算が14年度も大きく増えたように見えるのは、社会資本整備事業特別会計の廃止に伴う経理上の変更の影響だ。

構造改革を訴えた小泉純一郎政権が終わりを告げた06年度の公共事業関係費の当初予算は7.2兆円。「コンクリートから人へ」を訴えた民主党が衆院選に勝って誕生した鳩山由紀夫内閣の下で組まれた10年度の当初予算でも、公共事業関係費は5.8兆円に達していた。

安倍政権が変えたのは量より質
生産性向上に向け新技術導入を進める

第2次安倍内閣の発足間もない頃の他に、計画的かつ積極的な公共投資に打って出たのは政権後期の18年度。西日本豪雨や関西国際空港を水没させた台風21号などが列島を襲ったタイミングに当たる。「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」で、2.4兆円の公共事業関係費を配分した。

安倍政権の時代において建設産業にもたらされた大きな変化は、予算という量の部分ではない。建設プロセスを革新する新技術導入など質の面で転換した。16年1月、当時の国土交通大臣だった石井啓一氏は同年を「生産性革命元年」にすると会見の場で表明した。この取り組みを強く後押ししたのが安倍氏だ。同年9月に開催した第1回未来投資会議において、第4次産業革命による「建設現場の生産性革命」に向け、「建設現場の生産性を25年までに20%向上」という目標を明言。具体的な建設現場の改善イメージも提示した。

目標を実現させる施策がi-Constructionだ。同施策の推進によって、その後の建設業での新技術導入は劇的に進む。ドローンを活用した工事現場の測量は当たり前の光景になり、3次元データで構造物の設計や施工を進める事例も着実に増えてきた。工事現場だけでなく、建設業における労務管理や経理などの業務でも、クラウド活用といったIT(情報技術)導入が加速している。

こうした取り組みや公共事業における労務単価の引き上げなどによって、建設業の労働者1人が1時間当たりに生み出す付加価値額、すなわち付加価値生産性は着実に向上した。15年に2,697円だった付加価値生産性は、20年時点で3,088円にまで改善。安倍氏が16年に言い及んだ目標はクリアできそうな見通しだ。

2018年6月5日に開催された第7回国土強靱化推進本部で発言する安倍氏(手前から2人目)(写真:首相官邸)

 

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