経済動向

経済動向
2022年7・8月号 No.540

米国大都市の人口減少、コロナ禍で加速

コロナ禍の米国では、大都市の人口が減少していたことが明らかになっている。人口密集地での感染懸念や、リモートワークの広がりなどが背景だ。見逃せないのは、人口を引き付ける大都市の吸引力が、コロナ禍前から低下していたことだ。アフター・コロナで、米国の大都市に人口は戻ってくるのか。今回は、ビジネス・チャンスの所在を左右する米国の人口動向について解説する。

大都市で人口が減少

コロナ禍は、米国の都市別人口動向に大きな影響を与えてきた。直撃を受けたのが、大都市だ。2022年3月に米国商務省が発表した都市別人口動向によれば、人口が100万人を超える大都市の総人口は、21年7月までの1年間で減少に転じている。

コロナ禍の影響は広範だ。全米で56ある大都市のうち、前年より人口の増加率が高まった都市は6か所しかない。残りの50都市では、人口が減少するか、増加率が低下している。また、このうち42都市では、2010年以来最大の人口減少率、もしくは最低の増加率となった。減少率ではサンフランシスコ、減少数ではニューヨークが最大だ。

都市の人口変化は、主に3つの要因に左右される。①出生者数と死亡者数の差である自然な変化、②外国とのあいだの人口移動(移民)、そして、③国内での人口移動である。コロナ禍は、これら3つの要因に関して、いずれも大都市への逆風となった。死亡者の増加などによって、自然増の勢いは弱まった。入国制限などもあり、移民の流入も減少している。

大都市とそれ以外の地域の明暗を分けたのが、3つ目の要因である国内の人口移動だ。総人口が減少に転じた大都市とは対照的に、それ以外の地域では、21年7月までの1年間の総人口の増加率が、前年を上回っている。自然な人口増や外国からの移民流入の鈍化という点では、大都市以外の地域も条件は同じだが、それを補うだけの人口移動の変化が、大都市との間で起こっていたからだ。実際に、21年7月までの1年間における米国内の人口移動では、大都市からの流出超が急速に拡大している。コロナ禍においては、人口密集地での感染に対する懸念や、リモートワークの普及などが、大都市からの人口流出を後押しすると同時に、他の地域からの人口流入を抑制していたようだ。

コロナ禍の影響は薄れつつある兆しも

大都市で人口の減少が続けば、経済の活力が損なわれかねない。米国がアフター・コロナに移行していくなかで、人口が再び戻ってくるかどうかは、大都市にとって極めて重要な問題だ。

コロナ禍の影響が薄れつつある兆しはある。米国労働省によれば、コロナ禍を理由にリモートワークを利用した割合は、22年5月時点で7.4%となり、2か月続けて10%を割り込んだ。もっとも高かった20年5月の35.4%と比べれば、オフィス回帰は進んでいるようだ。もっとも、この統計はコロナ禍を理由とするリモートワークが対象であり、コロナ禍を契機にリモートワークが定着したケースが含まれていない可能性がある点は、割り引いて考える必要があるだろう。

人口密集地域からの転出にも、勢いが衰えている気配がある。郵便局への転出届を分析した結果によれば、20年に急増した人口密集地域からの届出は、22年2月までの1年間でコロナ禍前の水準にまで低下している。特にニューヨークに関しては、同じ転出届のデータから、21年後半に国内からの人口移動が流入超になった可能性が指摘されている。

コロナ禍前からの潮流は変わるか

見逃せないのは、人口を引き付ける大都市の吸引力が、コロナ禍前から低下傾向にあったことだ。大都市の総人口の増加率は、10年代後半から急速に低下してきた。個別の都市をみると、ニューヨークでは17年、シカゴでは15年から人口減少が続いていたのが現実だ。

実は大都市では、コロナ禍前から、人口を左右する3つの要因がいずれも逆風になっていた。高齢化により自然増の勢いは鈍化傾向にあり、トランプ前政権の厳しい移民政策によって、海外からの移民も減りつつあった。国内の人口移動についても、大都市の合計では10年代後半から流出超が続いていた。子育ての時期にさしかかったミレニアル世代(1980年代初めから90年代中頃生まれの世代)が、広い住宅などを求めて郊外に移り住んでいったことなどが背景だ。アフター・コロナへの移行は大都市にとって朗報だが、コロナ禍前からの潮流が変わらなければ、継続的に人口増が勢いを増していく展開は描きにくい。

カギを握るのは、Z世代と呼ばれる20代半ば以下の若年層の動向だろう。伝統的に大都市の人口を支えてきたのは、大都市のライフ・スタイルを好む若年層の流入だ。若年層に魅力的な環境の創出が、アフター・コロナの大都市の課題になりそうだ。

 

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