建設経済の動向

建設経済の動向
2022年6月 No.539

生産性2割アップの実現に死角はないか

建設産業の生産性2割向上を目指して、国土交通省が導入したi-Constructionの施策。付加価値生産性の観点から見ると、施策は目標に向けて順調に進んでいる。一方で課題も残っている。今後、建設業の生産性を高めていくために必要な施策などを解説する。

国土交通省が2016年に始めたi-Construction。建設生産システムにおいてIT(情報技術)の導入が進み、設計や施工といった建設生産システムにおいて新しい技術を取り入れる動きは加速した。i-Constructionでは、生産性を2015年に比べて2割引き上げるという目標を掲げている。付加価値生産性の観点から見ると、現状では着実な進捗を見せている。

2015年の時点で、建設業従事者1人が1時間当たりに生み出す付加価値額は2697円だった。これが、建設現場などにおける業務改革に伴い、2020年には3088円にまで伸びた。2025年の目標は3236円なので、計画は順調に進んでいるように映る。

ただ、手放しで喜べるような状況ではない。2つの大きな課題があるからだ。1つは、建設業の付加価値生産性が他の産業と比べて低い水準に甘んじている点だ。2019年時点の製造業の付加価値生産性は5788円、情報通信業では6602円に及ぶ。いずれも建設業の2825円の2倍以上の金額だ。

もう1つは、まだ中小建設業の取り組みが本格化していない点だ。これまで、i-Constructionの取り組みを大きく牽引してきたのは、比較的規模の大きな建設会社だった。これは、国土交通省の一般土木工事について、入札ランクごとにICT施工の経験を持つ会社を調査した結果からも明らかだ。

国土交通省の入札ランクは、工事金額の多寡に応じてA~Dまで4段階で区分けされている。このうち、工事金額が高い事業を担うAランクやBランクに属する規模の大きな建設会社は、ICT施工を経験した割合が9割を超えた。半面、CランクやDランクに属する中小規模の建設会社では、その導入率がぐっと低くなっている。

中小規模の建設会社がi-Constructionの取り組みに十分に参加できなかった一因として、基準類の整備が追いついていないという問題があった。そこで、国交省では2022年3月、小規模現場向けのICT施工を実施しやすくする要領案を制定。土工量1000m3未満の土工事でのICT施工を推進している。

こうした国の後押しを受け、中小規模の現場での効率化では、スマートフォンを活用した測量やマシンガイダンス機能を備えた重機の導入など、工事自体を合理化する取り組みが進展するとみられる。

工事の作業自体を効率化する取り組みだけでなく、現場で撮影した写真の整理など報告書を作成する業務の効率化も生産性向上に役立つ。クラウドを介して写真を保存し、専属の部隊が撮影者に代わって資料をまとめていくような取り組みも拡大していくとみられる。

他方、中小規模の建設会社では、経理や勤怠管理といった管理業務での効率化が十分に図られていないケースが少なくない。いわゆるバックオフィス部門における業務効率化も生産性向上に寄与する。こうした部分では既存のソフトやサービスが多いので、各社の実情に合ったシステムの導入は検討に値する。

図1 

2019年時点の産業別の付加価値生産性。図2も国土交通省の資料を基に日経コンストラクションが作成

 

図2 

国土交通省の一般土木工事の等級別に見たICT施工経験の割合。単体企業での元請け受注工事だけを集計した。
北海道開発局と沖縄総合事務局は除く。対象期間は2016~2020年度。
縦軸の企業ランクの下のカッコ内の数字は2016年度以降の直轄工事を受注した企業数

 

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