経済動向

経済動向
2022年5月 No.538

巨大経済圏RCEP誕生の意義

東アジア地域の15カ国による「地域的な包括的経済連携(RCEP)」協定が2022年1月1日に発効し、世界の約3割を占める巨大な経済圏が誕生した。日本にとっては中国、韓国との初めての経済連携協定(EPA)であり、日本の経済や企業にも大きなメリットが期待される。そこで今回は、RCEPの概要ならびに、その経済効果について解説する。

世界の約3割を占める経済圏が発足

RCEP協定が、2022年1月1日に発効した。RCEPには、日本や東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国などの15カ国が参加しているが、まずは国内手続を終えた日本、中国、オーストラリア、ニュージーランド、ブルネイ、カンボジア、ラオス、シンガポール、タイ、ベトナムの10カ国で効力が発生し、2月1日に韓国、3月18日にマレーシアがこれに加わった。RCEPは、15カ国すべてで発効すれば、経済規模(GDP)、人口、貿易額のいずれでも世界の約3割を占め、世界最大級の巨大な経済圏となる。

日本にとってRCEPは、貿易相手国第1位の中国と第3位の韓国との初めてのEPAでもある。RCEP参加15カ国間でEPAが締結されていなかったのは日中間、日韓間のみであり、アジア太平洋地域のサプライチェーンにおける大きな「穴」となっていた。RCEPによってこの穴が埋められるとともに、参加15カ国が貿易投資の域内自由化を進め、共通のルールで合意したことで、域内サプライチェーンの強靱化や経済活性化が進み、新型コロナウイルスの感染拡大によって疲弊した参加各国の経済再建・復興につながるものと期待されている。

域内関税撤廃で最大の受益国は日本

RCEPは、物品貿易、サービス貿易、投資、政府調達、知的財産、電子商取引などの全20章で構成される包括的な協定となっているが、企業にとってもっともわかりやすいメリットは、関税の削減・撤廃である。

RCEP参加15カ国全体では、91%の品目で関税が撤廃される。日本の関税撤廃率は、ASEAN・オーストラリア・ニュージーランドからの輸入で88%、中国からの輸入で86%、韓国からの輸入で81%となっている。重要5品目(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物)と鶏肉は、すべて関税削減・撤廃の例外とされた。

日本の輸出企業にとっては、初めてのEPAとなる中韓両国の関税撤廃効果が特に期待される。協定発効前に日本から中国に無税で輸出できたのは輸出全体の8.4%の品目であったが、RCEPによってこの割合が最終的には86.0%まで大幅に引き上げられる。韓国の場合は、16.0%から83.0%に引き上げられる。

そのため、国連貿易開発会議(UNCTAD)の試算では、RCEPによってもっとも輸出を増やし、最大の恩恵を受けるのは日本となっている(図表)。

図表 RCEPによる関税削減・撤廃が輸出に与える効果

(資料)国連貿易開発会議(UNCTAD)資料より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

関税撤廃年限と他のEPAとの関係に要注意

このように、日本の輸出企業にとって大きなメリットが期待されるRCEPであるが、関税撤廃については主に2点、注意する必要がある。

一つは、関税撤廃年限である。関税撤廃が約束されている品目でも、協定発効時に即時撤廃された品目もあれば、撤廃までに20年以上要する品目もある。また、鉄鋼・鉄鋼製品、一般機械、電気機器、輸送機器などの品目の一部について、関税撤廃の例外としている国も少なくない。

もう一つは、品目によって、あるいは利用する時期によっては、RCEP以外のEPAを活用した方がよいケースがある。例えば、ベトナムの場合、RCEP、日越EPA、日本・ASEAN・EPA、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」の4つのEPAのいずれを使うかは企業が選択できる。自社の製品やビジネスモデルに合ったEPAを選ぶ必要がある。

RCEPの経済的メリットは、企業が活用して初めて現実のものとなる。RCEPの活用が進み、企業が自社の利益や製品の価格競争力を高め、日本経済の活性化につながることが期待される。

 

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