日本経済の動向

日本経済の動向
2021年9月 No.531

米中対立を受けて高まる供給途絶リスクへの対応

世界の工場として台頭した中国。対立する米国はもとより、日本をはじめとした米国の同盟国の間でも中国製品への依存度は高く、米中対立の激化を受けた供給途絶リスクへの懸念が高まっている。そこで今回は、日本ならびに世界の中国依存度を世界の貿易データから確認したうえで、供給途絶リスクを低減するための方策について解説する。

米中対立で再認識される供給途絶リスク

技術覇権を巡る米国と中国のさや当てが激しさを増している。経済安全保障や人権・民主主義といった価値の問題も相まって、対立緩和に向けた糸口は未だみえない。米国のバイデン政権は、中国を「既存の国際秩序に挑戦する経済的・軍事的な力を有する国」と規定し、輸出管理ならびに厳格な投資審査などを通じて、中国の台頭を抑え込む動きを強めている。これに対して中国は、技術面での欧米依存を軽減し、戦略物資の国産化などを進めるとともに、世界の対中依存(関係国への影響力)を高めることで、外国による対中規制・制裁への「強力な反撃・抑止力」とする方針だ。いわゆる「対中依存の武器化」である。

今や「世界の工場」と呼ばれるまでに存在感を増した中国。その中国を結節点に世界全体に張り巡らされた供給網は、対立する米国のみならず、その同盟国やパートナー国にも深く組み込まれている。とりわけ隣国である日本の中国依存度は高く、米中対立の激化に伴う供給途絶リスクを懸念する声が増えている。

日本の脱中国依存に向けたハードルは高い

図表は、日本における中国依存の実態をみたものである。国連の輸出入統計をもとに、2019年に取引された品目を、日本の中国に対する依存度別に集計した。これをみると、全4,184品目のうち、1,389品目で中国のシェアが50%を超えていることがわかる。金額ベースでは、中国からの輸入額のおよそ7割が該当する。また、1,389品目のうち268品目は、中国のシェアが90%を上回り、ほぼ中国のみから調達されていることがわかった。パソコンやゲーム機器、エアコンといった家電製品の依存度が軒並み90%を超えたほか、水産物や野菜の加工品、フッ化水素や酢酸エチル、ストレプトマイシン(抗生物質)といった化学製品も、その大半が中国からの輸入に依存していた。

仮に、これらの品目の中国シェアを50%まで低下させるには、中国からの輸入金額のおよそ2割に相当する335億ドル分を他国や自国に振り替える必要がある。果たして、これだけの規模を代替することができるだろうか。しかも、268品目のうち102品目については、世界も中国に5割以上を依存しており、日本が中国に代わる調達先を確保することは容易ではない。今後、調達先多元化の議論が盛り上がるとみられるが、その目的を達成するにはかなりの年月と費用が必要となる。先行きの不確実性が高いだけに、日本政府はもとより、供給網の担い手となる民間企業にも相応の覚悟が求められることになるだろう。

(資料)COMTRADEより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

「攻め」から「抑止」への発想の転換がカギ

このように一朝一夕に中国依存度を下げることは、日本のみならず、欧米諸国でも難しい。当面は、供給途絶リスクに対して、在庫の積み増しや現地調達比率の引き上げなど、既存のサプライチェーンを前提とした対策が主流となるだろう。ただし、あくまでも対処療法にとどまる点に留意する必要がある。

技術覇権を巡る争いだけに、機微技術や戦略物資を対象とした部分的な対立・デカップリングは避けられないとはいえ、既に世界規模で経済的相互依存関係が構築された中にあって、米中対立で供給網が不安定化すれば、その影響の大きさは計り知れない。有効な代替策がない以上、機微技術や戦略物資以外の分野への波及をどう抑え込むかが、供給途絶リスクを低減するカギとなる。その点において、お互いの弱点を突き合うような対抗措置の応酬はなんとしても避けなければならない。供給網の実態をしっかりと認識し、双方が抱える弱点をむしろ不毛な応酬の抑止力とするような、冷静な対話が求められる。

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