建設経済の動向

建設経済の動向
2020年11月号 No.523

維持管理はモニタリング主導に

笹子トンネルの天井板崩落事故を受け、橋やトンネルなど道路施設に対する近接目視が義務付けられた定期点検。この仕組みが2024年度に3巡目を迎える。国土交通省は点検技術のカタログ改訂でモニタリング技術を追加。人力に頼らない点検や診断の実現を目指している。

インフラメンテナンスの合理化に向けた技術開発や技術導入はこの10年近くで大きく進展した。高所でのドローンの活用やコンクリートのひび割れ確認でのAI(人工知能)による画像処理など様々な取り組みが始まっている。国は、こうしたインフラメンテナンスの合理化の動きをさらに次の段階に進めようとしている。モニタリングの本格化だ。

国土交通省は2020年6月、点検支援技術性能カタログ(案)(以下、性能カタログ)を改訂した。そして、その中に橋梁の異状を対象とする計測・モニタリング技術を初めて盛り込んだ。この動きは、将来のインフラの維持管理を大きく変える起点となる可能性を秘めている。これまで近接目視が中心だった点検手法を刷新する意味を持つからだ。

膨大な量に上る道路施設の定期点検で、近接目視を基本とするのは効率が悪い。国交省は5年周期の定期点検で、現在進む2巡目、24年度から始まる3巡目における業務改善を目指し、近接目視のウエートを下げる方針を掲げた。既に19年2月には定期点検要領を改定。非破壊検査やICT(情報通信技術)を活用した計測・モニタリング技術などの導入を認めている。

そして20年6月、国交省は社会資本整備審議会道路技術小委員会で、道路施設の点検や診断で計測・モニタリングのウエートを増やし、3巡目の点検開始までに近接目視や打音検査よりも大きくしていくという青写真を提示した。冒頭で記した性能カタログの改訂に結び付けたのだ。

性能カタログは使い勝手に難点 自治体とICT企業のお見合いも

ただし、この見通しを実現していくための条件がある。技術開発の順調な進展だ。現在実用化されている計測・モニタリング技術は、まだ近接目視を大幅に減らせるほど成熟していないからだ。今回の性能カタログの改訂で載った25件の計測・モニタリング技術も汎用性が高いものはあまりない。特定の部位などを対象に異状を検知するものが中心となっている。

もう1つ課題がある。点検業務を実施する自治体などにとって使い勝手がよいとは言い難い点だ。性能カタログに収録した技術は、国交省が個別に審査、評価して選んだものではない。必要事項を満たしていれば、開発企業が記した内容がそのままカタログに掲載されるのだ。そのため、「掲載技術にどんな特性があって、どのような橋に向いているのか、カタログを見ても分かりにくい。採用の検討に時間がかかる」といった声も聞こえてくる。

他にも、ひび割れといった異状の検知で、検知そのものを目的化して、構造に影響しないヘアクラックまで拾ってしまうような技術も見受けられるという。

こうした課題を解消するために、新しい技術開発の一翼を担うICT関連の企業と建設産業側の橋渡しに取り組む動きも進められている。国交省が実施するマッチング事業だ。新技術を導入したい自治体と技術を提案する企業とをそれぞれ募集し、“お見合い”をしてもらうのだ。
こうした取り組みに積極的に臨む先進的な自治体とそうでない自治体との違いも目立ち始めている。

2020年6月に改訂された点検支援技術性能カタログ(案)の概要。国土交通省の資料を基に作成

 

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