建設業バックオフィスDX・AI最前線
建設業バックオフィスDX・AI最前線
2026年5月号 No 578
第2回 その「初手」が命運を分けるバックオフィスDXのスタートライン

連載第1回で、私は一つの持論を述べた。「建設業DXの本来の目的とは、会社全体が効率化し、成長すること。バックオフィス、現場、協力会社のすべてにおいて業務効率が上がること。仮にDXが新たな負担を生むのであれば、失敗である」今回は、この言葉を裏付ける具体的な事例を基に、DXの深淵を探っていく。
経営者から「我が社もそろそろDX化を検討しようじゃないか。各部署の代表で会議を始めてくれ。君が推進リーダーだ」と指示が飛ぶ。この状況下で、あなたはどのように進めていくか想像してほしい。実は、この「初手」の選択こそが、プロジェクトの成否を占う最大の転機となる。
Case1 各部署ごとに便利ツールを導入し失敗
- 推進リーダー(あなた):「各部署で便利なツールを考えてほしい。次回、どれだけの効率化が見込めるか話し合おう」
1か月後、各部署からは「正論」の要望が集まる。
- 積算部:「Excelでの見積作成は非効率。専用ソフト導入で30%効率化できる」
- 工事部:「施工管理アプリを使えば、協力会社とのやり取りが劇的に改善する」
- 総務部:「勤怠をスマホ打刻にすれば、職人の直行直帰も容易に管理できる」
まずは導入効果の高そうな3つのソリューションを運用することにした。
待っていたのは「効率化」ではなく「現場の悲鳴」
鳴り物入りで導入した複数のソリューション。しかし、運用開始直後からクレームが噴出。
- 1.積算部(積算ソフト)
積算ソフトを導入した積算部に対し、工事部からクレームだ。「今までは見積データからExcelマクロで実行予算を組んでいた。だが、新ソフトはPDF出力しかできない。OCR処理して誤字をチェックして……工数が4倍になったぞ」 - 2.工事部・総務部(施工管理アプリ・勤怠アプリ)
現場の職人たちも不満を爆発させる。「施工管理アプリと勤怠アプリ、なぜ2回もログインしなくてはならないのか。面倒でやっていられない。一つにまとめられないのか?」 - 3.DX推進チーム
システム統合を検討しようにも、頭を抱えた。調べた結果、他のソフトでは対応できることがわかったからだ。「せっかく多額の初期費用を払い、皆が操作に慣れたのに、また買い直すのか?サブスクだから月額は止められても、投資が無駄になるのは避けたい……」
失敗の本質を総括する
このケースから浮かび上がる問題点は、以下の3点。
- ◎局所最適によるデータ分断:各部署がバラバラに「自分たちが便利なもの」を選んだ結果、データがつながらず後工程にシワ寄せがいく。
- ◎現場の負荷増:ツールが増えるほど現場のストレスが溜まり、結局「使われない」か「不満が爆発する」パターンだ。
- ◎サンクコスト(埋没費用・もったいない)のジレンマ:「せっかく多額の費用を払い、操作にも慣れた」という思いが足かせになり、不便だとわかっていても次の一手が打てなくなる。過去の投資に縛られ、未来の効率を犠牲にする典型的なパターンだ。非常によくあるケースで、この状態になってしまってからの相談は多い。
現場の言葉から学んだこと~
失敗こそが「救い」になる
先日、ある経営者から非常に興味深い話を伺った。「セミナーの多くは成功事例ばかり。だが社員は失敗を恐れ、無難な意見しか出さなくなる。Trial&Errorを続けるからこそ見えるゴールがあるはずだ。失敗事例を発信することで、救われる企業も多いのではないかな?」目から鱗だ。本連載にも活かしていこうと肝に銘じた。
次回はこの失敗事例を踏まえ、別視点から Case2 を紹介していく。

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