サプライチェーン重視時代の建設工事契約のポイント
第2回 取適法が建設業者に与える影響

弁護士法人匠総合法律事務所
弁護士 秋野 卓生
東京・大阪・名古屋・仙台・福岡に拠点を設ける弁護士法人匠総合法律事務所 代表社員弁護士。
法務省司法試験考査委員(民法)等を務める。
今般、下請代金支払遅延等防止法(略称「下請法」)が改正され、新たに「中小受託取引適正化法」(正式名称「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、略称「取適法」)となります。
取適法は、旧下請法と同様、独禁法の優越的地位の濫用規制を補完し、簡易な手続きで下請事業者の保護を図ろうとするものです。取適法は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託そして特定運送委託(今回の改正で追加)を対象としています。また今回の改正から「下請」という文言は使われないことになりました。
建設工事の請負契約における下請事業者の保護については、その役割は引き続き建設業法が担うため、今回の下請法改正後の取適法においても、建設工事の請負契約は適用対象外となっています。
しかしながら、建設生産は、建設業者同士の請負契約に基づく取引のみならず、各種調査や設計、資材の購入など様々な取引から成り立っています。それらは取適法の対象となりえますので、建設業者としては、建設業法改正だけでなく、今回の取適法改正についても十分に理解しておく必要があります。以下具体的に見ていきましょう。
情報成果物作成委託と
製造委託
例えば建設業者が建物を建設するにあたっては、まず、どういう建物を建設するのかという「設計」が必要になります。設計図を作成する作業を委託すれば、「情報成果物作成委託」に該当するため、設計施工を一括で受注し、それを設計業者に再委託する場合、「設計」に関する部分については取適法の適用対象となります。
また、建設資材や部品の製造を外注する場合もあるでしょう。プレカット材の製造を委託したり、特注の建具、鉄骨加工などを製造委託したりするような場合は、同じ製造委託として取適法の対象となります。ただし、規格品の単なる「購入」は売買契約であり「製造委託」に該当しないため、対象外となります。
上記のこれらは旧下請法の適用対象でもあり、改正の影響があるわけではありません。もっとも、後述するとおり、取適法の対象となる事業者の規模基準が拡充され、従来の資本金基準に加え従業員基準が追加されましたので、これまで適用対象でなかったとしても、今後対象となる可能性があるため、注意が必要です。
特定運送委託
今回改正された取適法によって、新たに適用対象となるのが特定運送委託です。建設業との関係で問題になるのは、現場に資材を搬入するケースです。もっとも、工事の一環と見られるケースもあるでしょうから、場合を分けて検討する必要があります。
- 1 建設資材の搬入
建設資材を購入し、現場に搬入する場合を考えます。
まず、メーカーや商社から資材を購入し、その購入したメーカーや商社に現場まで運んでもらうことは、その運搬は売買契約の範囲内の付帯サービスと考えることができ、取適法の対象外になります。
次に、購入したメーカーや商社ではなく、別途運送業者と契約を締結して現場まで運搬してもらった場合はどうでしょうか。この場合は、運送業者に対する個別の委託となるため、取適法の対象となります。ただし、メーカーや商社側が運送業務のみを外注している場合、それはメーカー・商社と運送業者との契約であり、建設業者の視点からは、運送について取適法の適用を考える必要はありません(メーカー・商社と運送業者の間では取適法が適用されます)。
なお、運送業者に対して、運送の役務を提供させることに加えて、「無償で」運送の役務以外の役務である荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等をさせることは、不当な経済上の利益の提供要請に該当し、取適法違反となる可能性があるため、注意が必要です。 - 2 工事会社の持ち込み
工事の下請業者が、自社の職人と一緒に材料を運んでくる場合はどうでしょうか。この場合は、建設工事の請負契約に付随する行為であり、建設業法の領域であることから、取適法の対象にはなりません。あくまで、運搬行為のみを運送業者に依頼した場合には、取適法の対象となる、と考えておくとよいでしょう。
取適法の適用対象となる
規模基準
取適法の適用対象となるためには、取引の内容とともに、規模基準が必要となります。つまり、上記で説明したような取引を行っていても、委託事業者(改正前の「親事業者」)と中小受託事業者(改正前の「下請事業者」)の規模によっては、取適法の対象とならない場合がある、ということです。なお、改正前は、この規模基準は資本金基準だけでしたが、今回の改正によりあらたに従業員の数による規模基準が追加されたことがポイントです。
- 1 物品の製造委託・修理委託・特定運送委託、情報成果物作成委託(プログラム作成)・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に限る)
上記については、次の「いずれか」に該当する場合には、取適法の対象となります。プレカット材の製造委託や、資材の運送委託などの場合は、この基準に該当しているか否かが、取適法の適用を考える上での分水嶺となります。
- 2 情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く)
上記については、次の「いずれか」に該当する場合には、取適法の対象となります。設計委託などの場合は、この基準に該当しているか否かが、取適法の適用を考える上での分水嶺となります。
禁止される行為等
委託事業者については、代金支払遅延や不当減額、買いたたきなど従来の禁止行為に加えて、受託事業者からの協議に応じない一方的な代金決定や代金支払い手段における手形払いなどが禁止されることになりました。
なお、約束手形については、すでに2026年度末までの廃止が政府の方針として定められており、建設工事の請負契約も含め、他の適切な支払手段に移行する必要があります。
これらの禁止される行為に対してはその是正を図るため、公正取引委員会からの勧告などの措置がなされることになります。
まとめ
上記のとおり、建設業との関係では、建設工事の請負契約ではない、主に「現場の外」で必要な契約について、取適法の網にかかる可能性があります。
自社の発注ルートを見直して、取適法の対象となる取引箇所について改めて確認するとよいでしょう。
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