建設経済の動向

建設経済の動向
2026年3月号 No 576

建設費2倍の時代、インフレに揺れる建設業界

日経クロステック 建設編集長 佐々木大輔

未曽有の建設費高騰によって、多くの都市開発プロジェクトや公共事業が計画の見直しを余儀なくされている。「建設費2倍」が常態化。深刻な人手不足などが引き起こしたインフレは、建設業界に何をもたらすのか。激動の業界動向を追った。

建設費が数年前の2倍程度に膨らみ、計画見直しや延期、中止に至る建築プロジェクトが、連日のように報じられている。背景にあるのは、資材費の高止まり、そして慢性的な人手不足や時間外労働規制の強化による労務費の上昇だ。

建設物価調査会のデータによると、2015年を100とした建築費指数(工事原価)は過去数年にわたって上昇を続けている。東京都では2026年1月の暫定値で鉄骨造事務所が140.5、鉄筋コンクリート造集合住宅では142.9に達した。2020年のウッドショックに始まった「令和の建設費高騰」は、建設業界の構造的な問題に起因するものであり、一過性ではない。もはや「新常態」となったと言えるだろう。

労働供給力の制約と工事原価の高騰への警戒から、大手建設会社は採算重視の受注を徹底、条件の厳しい工事の受注には消極的だ。コスト構造が大きく変化する中、発注者の設備投資意欲や消費者の購買意欲は減退し、建築需要が冷え込んできている。

足元の建築需要を示す建築着工床面積を見ると、その傾向は鮮明だ。2025年の建築着工床面積は1963年以来、62年ぶりに1億㎡を割る見込みだ。市場は縮小傾向が顕著で、中小建設会社の倒産も増加している。

建築着工床面積はピークのバブル期に約2億8000万m2を記録。その後はほぼ一貫して減少を続けてきた。2025年は1億m2を割り込む可能性が高い(出所:国土交通省の資料を基に日経クロステックが作成)

これまでは人手不足が需要減少を上回っていたため表面化しなかった諸課題が、いよいよ顕在化する局面へと移っている。今後も需要の落ち込みが続けば、市場環境は中小建設会社だけでなく、大手にも逆風となる可能性が高い。

建設費高騰への対策を怠れば、企業の存続を脅かしかねない——。ビジネスを取り巻く環境が急変する中、建設業界の再編機運が一気に高まっている。実際、2025年は大手建設会社や住宅会社によるM&A(合併・買収)が相次いだ。

地方の建設会社も無縁ではない。東北6県の建設会社7社とみずほ銀行が共同出資して新会社「東北アライアンス建設」を設立するなど、企業同士が連携によって生き残りを図る事例も出てきた。人材の融通など、地域の枠を超えた協業は、建設会社の生存戦略の一手として注目を集めている。

2035年度に技能者264万人との予測も
生産性向上の鍵はDXとAI

2025年12月の改正建設業法施行に伴い「標準労務費」(労務費に関する基準)の運用が始まるなど、適正な労務費確保の動きは着実に進みつつある。一方で、労働供給力は今後も下がり続ける見通しだ。日本建設業連合会は2025年7月に発表した長期ビジョン2.0で、技能者数が2025年度の299万人から、10年後の2035年度に264万人まで減ると予測した。

コストプッシュ型のインフレが続くと予想される中、避けて通れないのが生産性向上だ。大手建設会社や建材・設備メーカーは労働供給力の減少を見据え、建築生産の在り方そのものを見直す動きを活発化させている。現場作業を減らし、コスト削減や工期短縮を実現するため、部材の規格化や工業化、資材の軽量化、工法の単純化を進める取り組みが目立ってきた。加えて、建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やAI(人工知能)といった先端テクノロジーの導入が不可欠となりつつある。

インフレ時代となった今、建設業界はこれまでの常識を大きく変えることを迫られている。2026年はその分岐点となる年になるだろう。時代の荒波を乗り越え、持続的な成長の道を開けるか、正念場を迎えている。

長谷工コーポレーションが茨城県内で稼働させたプレキャストコンクリート工場。海外製の最新機器を導入し、自動化を徹底。人手不足に対応するため、部材の規格化や工業化を進めている(写真:日経クロステック)

 

【冊子PDFはこちら

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら