日本経済の動向

日本経済の動向
2022年12月・2023年1月 No.544

インフレ・通貨安・世界経済減速リスクに直面する新興国

ウクライナ情勢に影響を受けたグローバルインフレの加速と、欧米の利上げに伴う資金流出圧力や通貨安圧力、そして世界経済の減速懸念により、新興国経済は大きなリスクに晒されている。今回は、政府債務負担の増加やデフォルトの波及など、さまざまなリスクに直面する新興国経済の今後を見通すためのポイントを解説する。

インフレにさらされる新興国

インフレに関しては、ウクライナ侵攻の開始以前も、コロナ禍の影響による供給制約や経済活動の再開を受けて、国際的にエネルギーや食糧などの資源価格の上昇が続いていた。2022年2月のウクライナ侵攻により、ロシアが輸出している石油・天然ガスの高騰に加え、ロシア・ウクライナ両国が世界的な輸出国である小麦価格も急騰、グローバルインフレが一段と加速する事態となった。新興国は、家計支出に占める食糧やエネルギー向け支出の割合が高い傾向にあり、食糧・エネルギー価格の高騰は、先進国に比べて一段と家計を圧迫する傾向が強い。

新興国も金融引き締めに舵

主要先進国の金融政策の変化も新興国には新たなリスク要因となっている。過去の事例をみれば、利上げや量的緩和政策の縮小など、特に米国の金融政策の変更は、新興国に流入していた資金の巻き戻しを引き起こすことが多い。たとえば、今次のウクライナ侵攻後の時期と、2013年テーパータントラム(米国量的緩和策の縮小観測に起因する資金流出)の時期を比較すると、22年2月下旬以降、新興国からの資金流出が13年と同様に発生している。現時点では、資金流出の背景がより複合的になっており、資金流出リスク、ひいては通貨安圧力に警戒が必要な状況は続くと見込まれる。こうした中、インフレと通貨安の対応で利上げを余儀なくされる新興国も多く、金利上昇で消費や投資が影響を受けることも想定される。

世界経済の減速も新興国に追い打ち

加えて、新興国は、世界経済の減速に伴う輸出の減少の影響も受ける。中国のゼロコロナ政策によるロックダウンの結果としての供給制約の影響に加え、今後、欧米の利上げにより世界経済全体の減速感が強まる場合は、シンガポールや、タイ、ベトナムなどの外需依存型の経済構造を持つ新興国を中心に、輸出の低迷により景気が下押し圧力を受けるリスクが大きくなる。

今後の新興国経済のリスクを見通すうえでのポイントは、大きく2つ考えられる。第1は、コロナ対策の財政出動の影響もあり、新興国の政府債務残高が増加しているなか、利上げに伴う債務負担増が新興国経済にどのような影響を与えるかである。新興国の財政状況は、コロナ禍の影響で、2020年以降、軒並み悪化している。大陸別でみれば、アフリカ、ラテンアメリカの悪化幅が大きい。食料やエネルギー向けの補助金政策や価格統制をしている国では、資源価格高騰で、今後、財政負担がさらに増す可能性もあり、財政面の脆弱性を抱える一部の新興国にとって、政策面で極めて厳しい状況となっている。

第2は、資金流出と通貨安圧力が続くなかで、対外支払いが困難化することから、デフォルト危機の発生と波及をどう考えるかである。結論を先取りすれば、デフォルトの発生と波及のリスクは、現時点では限定的であると考えられる。経済規模の比較的大きなASEAN主要国やブラジル、インドなどは、外貨準備を着実に積み上げてきているため、即座に対外支払いに窮する状況ではないと考えられるからである。

新興国の通貨安の長期化も視野に

しかし、経済規模の比較的小さな新興国では、デフォルト懸念を抱える脆弱国が増加しつつあるのも事実だ。例えば、スリランカでは、すでに外貨準備の枯渇から、政府が2022年5月に国家破綻を宣言し、国際機関の融資を受けながらも、食糧や燃料の輸入のための対外支払いに窮する状況が続いている。

外貨準備不足や経常赤字で経済のファンダメンタルズが脆弱な国々をみれば、局所的なデフォルトの発生確率は高まっている。また、今後の新興国の景気回復については、前述のとおり、利上げとインフレ、世界経済の減速で下押し圧力が大きくなっており、厳しい環境にある。

先行きを展望すると、今後新興国からの資金流出のトレンドが、突発的なイベントにより強まる可能性もある。今後、新興国に対する通貨安圧力が想定以上に長期化する場合には、景気低迷とインフレ加速が同時進行するスタグフレーションの可能性もゼロではない。経済のファンダメンタルズが脆弱な新興国を中心に、政府債務や資金流出の状況に対して、これまで以上に目配せが必要となろう。

 

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