建設経済の動向

建設経済の動向
2022年5月 No.538

ウクライナ危機が建設資材価格を押し上げる

ロシアによるウクライナ侵攻。本稿を執筆する3月末時点で、収束の見通しは立っていない。この遠く離れた場所での戦いは、日本の建設産業にも暗い影を落としつつある。資材価格の高騰だ。木材、コンクリート、鋼材といった構造材から建物の内装材に至るまで、その影響が及ぶ範囲は大きい。資材価格高騰の現状を解説する。

ロシア軍がウクライナに侵攻した影響は、今後の建設産業に大きな影響を及ぼす可能性が高い。ロシアへの経済制裁などによって、ロシアで産出する原材料に対する輸入が多くの国で困難になり、需給逼迫が起こると見込まれるためだ。材料別に価格高騰の状況をみていく。

まずは木材。木材は既に「ウッドショック」と呼ばれる価格高騰に見舞われている。ウッドショックをもたらした一因は、米国での住宅供給の急増だ。新型コロナウイルスの感染拡大がもたらしたテレワークの増加や住宅ローンの歴史的な低金利が背景にあった。この状況が輸入木材の価格を押し上げ、国産材価格も上がるという現象を生み出した。価格上昇のペースは落ち着いたものの、現状でも国内の木材価格は高い水準で推移している。

輸入材の価格が高止まりするなか、国内の木材も品薄の状況が続いている。国産合板の価格は2021年秋ごろから急速に価格が上がっている状況だ。

日本では、ロシア産の製材の輸入量が多い。総輸入量の2割弱を占めている。柱や梁、天井の下地材などで利用される製材がある。なかでも多く使われるのが、天井の下地材だ。1カ月当たり約1万7000棟の住宅建設に影響が及ぶのではないかという試算もある。

生コンクリートの価格も上昇している。コンクリートの主原料は国内で賄える石灰石や砕石だが、輸送費やセメント価格が上がっているためだ。セメントは石灰石を焼成して製造する。この際の燃料として石炭を使うのだが、その石炭価格が上昇しているのだ。石炭にロシア産を採用している大手メーカーもあり、燃料調達の変更に伴って、コスト増を招き、それがまた価格に転嫁されるリスクも持ち上がっている。

鋼材価格も上昇 石油製品である内装材も

木材、コンクリートと並んで、建物やインフラの構造材料となるのが鋼材だ。この鋼材価格も木材と同様に価格上昇が続いている。価格高騰の理由は複数ある。1つは鉄鉱石の価格高騰だ。生産地における新型コロナウイルスの感染拡大などによって、生産量自体が落ち込んだのだ。さらに、国内における需要の低迷や二酸化炭素の排出量を削減する取り組みを受け、国内の大手鉄鋼メーカーが、建設用の鋼材を扱う高炉の休止に着手。付加価値の高い鋼材の生産への切り替えが進んでいる。

構造材以外の建材でも値上げが続いてきた。例えば、建物の内装材。壁紙や床材などはその代表例だ。これらの製品には、塩化ビニル樹脂を使う。この塩化ビニルの生産には、原油からつくるナフサが要る。ロシアによるウクライナ侵攻で原油価格が高騰し、ナフサの価格も高騰している。この影響が今後も続けば、内装材価格のさらなる値上げも見込まれる。

塩化ビニル樹脂は、日本国内での生産が低迷している。米国や欧州が内需拡大に伴って輸出量を減らした影響も受け、価格上昇を緩和する手立ては乏しい。

国内の建設産業とは一見、距離があるように見えるウクライナ危機。長期スパンで動く建設プロジェクトへは今後、じわじわと影響が及んでくるはずだ。

図1 木材価格の推移

図2 異形棒鋼とH形鋼の価格推移

図1は木材価格の推移。農林水産省の木材価格統計調査を基に日経クロステックが作成。図2は異形棒鋼とH形鋼の価格推移を示す。東京の大口取引で、異形棒鋼はSD295、D16、H形鋼はSS400、200×100mm。建設物価調査会のデータを基に日経クロステックが作成

 

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