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経営に活かす原価監理

経営に活かす原価管理 第6回|個別原価と全体最適 全体最適化とリソース配分

地域経済研究所 コストコントロール部会 石岡秀貴 高田守康

 前回まで5回の連載で、原価管理の最終的な目的は、保有する経営資源を活用して会社全体の利益を拡大することであると説明してきました。個々の現場の粗利を増やすことが重要であり、その粗利を増やすために、ネットワーク工程表を活用してリソースの管理をすることが不可欠であることを説明してきました。
 しかし、個々の現場を担当する代理人がいくら頑張っても、会社全体の営業利益の拡大に貢献できないケースがあるのです。

 


 どんなケースが会社全体の利益に結びつかないのか?

 個々の現場代理人がいくら頑張っても、会社全体の営業利益が拡大しないのは、一言でいうと「経営側に問題がある」ということですが、本論では、現場の原価管理との関係に絞って説明しましょう。
 それには、2つのケースがあります。

Ⅰ.会社全体の生産能力(社内リソース)と、生産量(完成工事高)とのバランスが適正でない
Ⅱ.個々の現場で精度の高い原価管理ができても、会社全体としての最適化ができていない

 まずは、Ⅰ.の生産能力と生産量のバランスが適正でないケースです。
 生産能力(社内リソース)とは、工事を施工するために会社が保有している諸々のリソースです。具体的には、現場代理人、所有重機、自社作業員などで、協力会社の一部もこの中に含まれます。
 生産量とは、完成工事高(落札額)であり、つまり現場の数や規模のことです。土木専門工事会社の場合、現場代理人が10人いるのに、年間の完成工事高が5億円程度では、余裕があり過ぎるでしょう。逆に現場代理人が10人で、20億円の完成工事高を叩き出せといっても、物理的に厳しいでしょう。
 あまり極端な例は、事業として成り立たないのであり得ませんが、社内リソースを確実に100%~120%使い切っている状態でなければ、会社全体に浮遊原価が発生します。ある現場でどれほど工期を短縮しても、その後、何か月も現場が無ければ、現場代理人や自社作業員、所有重機の固定費は、会社にとって無駄な費用になります。また、現場代理人が余っていると、1人で十分な現場を2人体制で施工したり、2人で間に合う現場に3人体制を投入したり、気づかないうちに会社の利益を削っていきます。一日単位の管理で絞り出した貴重な現場利益も、簡単に食いつぶされてしまいます。
 生産量に対して生産能力が過剰な場合、これを改善することは簡単ではありません。リソースが過剰だからと言って、リストラをしてしまうと簡単に補充はできません。自社が所有するリソース規模に対する適正な生産量を把握することは、絶対に必要です。純粋な公共工事の場合、実際にデータを調べてみると、現場代理人(1級技術者)1人あたりの完成工事高は、グラフのように3,000万円から9,000万円にかけて広く分布しており、ムダの無い正確な生産性はそれぞれの現場でしか判断できません。正確な生産性を見極めてムダがない工事を実現するには、それぞれの現場について、正確な工程計画と投入リソースの管理が出来ていることが必須条件です。曖昧な工程計画では、経営者は現場代理人の言い分を受け入れるしかありません。
 各現場の各工程で、ギリギリの最小投入リソースがどれだけ必要なのかを把握することで、会社全体の余力のリソースが判明します。その時点になれば、経営者の感覚で自社の余力リソースはわかるものですが、それでは営業として手遅れです。
 全現場でネットワーク工程表による緻密な計画を行うことにより、数か月後の余力リソースも、かなりの精度で予測できます。余力リソースを精度高く予測できれば、固定費吸収の為に利益がない工事であっても受注すべきなのか、無理な営業はしないで優良物件を待つべきなのかなど、戦略的な営業活動のための判断基準を持てます。予測精度が高くなればなるほど、会社全体の利益が拡大します。
 そして、ネットワーク工程表を使いこなすと、かなりの精度で現場終了の日程が判明します。現場代理人の誰がいつフリーになるのかを経営側が正確に把握することは、現在の入札制度上、非常に重要な社内情報となります。建設業経営として、重要で当たり前の受注可否の判断を精度高く実現できるツールとして、工程マネジメントは必須です。売上や利益に大きな影響を与える機会損失を避けるため、受注可否の精度を高めることが、非常に重要なのです。

図 1人当たり完成工事高の度数分布


完成工事高比率80%以上、元請比率80%以上、土木一式工事の完成工事高が5億円~20億円の企業1,690社の経審データを基に算出

 


 全体最適化とは?

 そこで、Ⅱ.の全体最適化が大切になってきます。ここで言う全体最適化とは、大きく分けると3つになります。

1.前述した、社内リソースの稼働率を100%以上に維持すること
2.第5回で論じた通り、現場代理人のタイプと現場のタイプを整合させること
3.以下に説明する、社内リソースを各現場へ適切に割り付けること

 ここで言う社内リソースとは、若手の現場技術者、自社作業員、所有重機、あと下請けの協力会がある会社ならばそれも一部含まれます。
 繰り返し強調しますが、第5回で論じたように、現場には4つのタイプがあり、原価の変動率、即ち工期の変動率が大きな現場を見極めることが大変重要です。そして、この原価の変動率が大きい現場に社内リソースの優秀なものを割り付けることです。
 これは、経営側の判断で行わないと出来ません。何故かと言うと、現場代理人は、自分の担当現場を第一優先で考えるからです。これは一概に悪いことではなく、自分の仕事に責任をもって全力を尽くすのですから当然のことです。
 しかし、会社全体の視点から見ると、現場代理人や自社作業員など人的リソースには、必ず優劣があります。現場1で、優秀な技術者と技能者、下請け、重機等を独占してしまうと、現場2、現場3...とどんどん手薄になっていきます。現場1が原価の変動率が最大の現場であればそれでいいのですが、そうでない場合は、現場2や現場3で本来得られる利益を犠牲にしてしまう可能性があります。その結果、会社全体で得られるべき利益が、損なわれることとなります。
 社内で発言力のあるベテラン代理人が、優秀な若手技術者や自社作業員を独占してしまうことは、どの会社でも見かける光景ですが、これは悪しき習慣というべきです。この問題への対策は、なにより経営側が現場タイプと代理人タイプをきちんと見極めた上で、適切なリソースの割り付けを徹底することです。それが会社全体の利益を最大化するのに、大きく貢献するのです。
 その結果、負け現場を担当することになる代理人に対しては、当然、相当の評価をしてあげる必要があります。
 このリソースの全体最適となる割り付けと、割り付けた結果の代理人の評価の補正は、経営側でなければ絶対にできない仕事なのです。
 さらに、特殊な技術・技能をもつ特定のリソースを、現場間で取り合う場合(リソースの競合)も、経営側が調整をする必要があります。下図は、現場1から現場4のクリティカルパスを並べたもので、四角は各工事のアクティビティで、矢印が作業順序を表しています。
 そこに、特別な重機や特殊技能を持つ作業班など、他で代替がきかないリソースを使用するアクティビティ「A」があるとします。「A」が同一時間帯に重ならないようにずらすと、リソースが競合しない太い線(クリティカルチェーン)が引けます。リソースの競合を調整した結果、個々の現場としての最大利益(最短工程)が達成できなくなる可能性があります。

 全体最適化をまとめると、

全体の生産量が適正でない場合、個々の現場がいくら頑張っても、会社全体で浮遊原価が発生してしまう
個々の現場の工程管理だけでは限界があり、全体最適化をしないと、会社全体での最大利益の達成は難しい
個々の現場の原価管理をより優れたものにするには、全体最適化が不可欠であり、全体最適化を推し進める「工程マネジメント」が必要である

 こうして、経営側と現場側の双方から、原価低減に取り組む協力体制が構築できると、必ず会社全体の原価の低減につながり、最終的に営業利益を最大化するという、経営目的に叶う結果が出せるはずです。

図 クリティカルチェーン

 



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