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Kaleidoscope/建築施工系技術者に求められるコミュニケーション能力

第6回|大学・学生に期待すること

鹿島建設株式会社 建築管理本部 建築企画部 大湾 朝康

1 大学に期待すること

 冒頭でも触れましたが、新卒採用面接で「施工管理者にとって最も重要と思われるスキルは何ですか?」との問いかけに対し、ほぼ全員が「コミュニケーション」と回答。さらに、「コミュニケーションスキルはご自身に備わっていますか?」との問いかけに対しても、全員がクラブ活動やアルバイトなどの経験を通じて、「充分、備わっています。」と即答します。しかしながら、内定学生や新入社員に不安事項を抽出させますと、いずれも不安事項のトップに「コミュニケーション」を挙げております。「コミュニケーション能力」も含めた「社会人基礎力」は本来、家庭や地域で醸成すべきものでありますが、核家族化や地域活動の担い手不足により、デジタル世代の若者にとって、これら能力を醸成する環境は衰退しているように思われます。入社した人材に対する教育はどの企業でも行われますが、教育の狙いは、“即戦力となるグローバル人材をいかに効率的に育成するか”ということであり、いずれの企業も“社会人基礎力”は充分備わっているとの前提で学生を採用していることから、これらに関わる教育は実施されておらず、OJTに委ねているのが実状と思われます。特に、現場は、顧客・設計・業者との円滑なコミュニケーションが前提となります。大学在学中にコミュニケーション力、組織編成力、論理的思考力、チームワーク、起業家精神などを醸成する教育が必要と思われます。なお、話が伝わらないメカニズムを理解させ、相手が話す情報に対して論点を掴み、客観性・具体性を高める質問スキルを学ばせるような「ロジカルコミュニケーション」に関わる実習は意義あるもの思いますが、相手の言いたいことを理解せずに、弱点を攻めたて、論理をすり替えて打ち負かすような「ディベート形式の訓練」はトラブル発生に結びつく危険性も潜在していることから、コミュニケーション能力を育成する手段としては、相応しくないように思います。

 以下に、社会人基礎力の醸成に効果が期待されると思われる、大学での実施事例を紹介します。
1)東洋大学では、発注者・ユーザー・コンサル・設計・元請・下請・メーカーの立場を疑似体験させ建築生産を進めていく「ロールプレーイングによるプロジェクトマネジメント」を演習に取り入れております(写真-5)。建築生産は、企画~設計~施工~維持管理の各プロセスにおいて専門化、重層化が進んでおり、学生が将来就くであろう職種が建築生産の中でどのような役割を担っているのかを理解するためにも、同手法による疑似体験実習の意義は大きいと思われます※9


2)ものつくり大学では、コミュニケーション能力とマネジメント能力の醸成を狙いとした「長期就業型インターンシップ」を教育体系に組み込んでおります。その中でも、最近実施されている「PBL型(問題解決型)インターンシップ」は、現場における施工管理上の問題やインターンシップ受入に関わる問題等を現場主任クラスとのブレーンストーミングで解決するカリキュラムも組み込まれており、実社会におけるこのような実践的な経験は、同能力の向上に効果があるものと推察します。

3)嘉悦学園では、学生職員による「ヒューマンリソースセンター」を運営させ、学園祭において模擬店を出店する際、事業計画書/報告書、作業工程表、収支予算書/報告書を作成させて、その成果をプレゼンすると同学園出身者から聞いております。学園祭の企画、収支・工程も含めた実施計画、反省そして成果報告など、プロジェクト遂行に関わる一連の作業を経験させることにより実社会を疑似体験させるという発想は素晴らしく、就業に対する不安を払拭させる効果もあると推察されます。

2 学生に期待すること

 人生の中で仕事をしている時間が一番長く、仕事が楽しくなければ人生は楽しくありません。また、楽しい仕事に従事することが出来たとしても、職場の仲間と協調しサポートするようなコミュニケーション能力が備わっていなければ、周囲との関係が希薄化し、個人のモチベーションの低下と自閉化により、組織にも悪影響を及ぼすことになります。
企業にとっては、いくら頭脳明晰で優秀な学生でも、対人性や協調性に欠け、心が弱くて休みがちとなるような学生は敬遠したいと思っております。特に学業だけに専念した純粋培養のプライド高き優等生は、組織の中での円滑なコミュニケーョンを前提とする施工管理職には向きません。学生生活の集大成そして終着点が就職であることを鑑み、就職活動に向けての心構えと学生時代の過ごし方について整理してみました。

 就職活動に向けての心構え

 入社後、ミスマッチに気付き退社するケースが、ごく少数ではありますが過去に散見されます。このような不幸が起こらないように、採用時の面接において面接官は、入社に対する理由と志望度を色々な角度から確認します。ネットあるいは書籍で企業研究した学生と、実際に企業を訪問し、先輩から企業カルチャーや職場の雰囲気に至るまで確認した学生とでは就職に対する意識や姿勢、そしてコミュニケーション能力の面で明確な違いが確認できます。イメージが先行し、消費者感覚で就職先を選ぶ学生、「ものづくり」というやりがいや達成感よりも3Kなど、表面上のマイナス要素を過大評価して他の業界に移ってしまう学生などが増えているように感じます。ミスマッチで退社と転職を繰り返す「青い鳥症候群」にならないためにも、自分自身の資質・能力を認識したうえで、先輩を頼り、会社が必要としている人材を把握すると同時に、会社の雰囲気と業務の実態についても確認する必要があります。人生の選択肢は多い方が可能性は広がります。これら一連のプロセスを達成するためにも、日常的にコミュニケーション能力を鍛える必要があると思われます。

学生時代の過ごし方

 東洋大学が2010年の5月に、建築学科3・4年生69人に対してコミュニケーション能力に関するアンケート調査を行いました。この結果、コミュニケーション能力が「ある」と答えた学生は22%、「ない」と答えた学生は55%、「分からない」が16%、「未回答」が7%という予想通りの結果でした。更に、コミュニケーション能力を身に付けるには?との問いに対して、57%の学生が、「最初は挨拶に重点を置き、その後は場数を踏んで色々な人と話す、その際、意思をはっきり伝えるように努力する。」と答えております※10。UCLAの教授アルバート・メラビアン博士は、コミュニケーションの比率を、話の内容7%、言い方・話し方38%、ボディランゲージ55%としております※11。声の調子や目線、表情や振る舞いなども意識すれば、挨拶という行為に、相手に対する親しみ、自分のやる気など、様々な思いを込めることが出来ます。また、コミュニケーションの場数を踏んでいくと、どう接するとうまくいくのか、実体験として掴めるようになります。コミュニケーションはそうした経験を積むことにより洗練されてきます※1
海外では、日本人の「謙虚」は通用せず、チームの中で自己主張できないと「何も考えていない奴」とみられる場合があるようです。今後、グローバル社会に対応していくことを考慮しますと、全く異なる世界の友人と、苦労しながら計画を練り、創意工夫により何かを実現させたような経験は、入社後、大いに役に立ちます。また、学生時代にしかできないホームスティによる海外経験などもコミュニケーション能力醸成の手段として有効であると思われます。


<参考>

※1 「コミュニケーション学」 藤巻幸夫 実業之日本社
※9 2008年日本建築学会教育賞「ロールプレーイングによる建築プロジェクトマネジメント実習」
※10 2010年5月28日 東洋大学工学部建築学科「コミュニケーション能力に関するアンケート調査結果」
※11 「できる人の話し方&コミュニケーション術」 箱田忠昭 フォレスト出版

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