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知っておきたい元請・下請の契約関係

第12回 元請・下請関係の欧米事情

(一財)建設経済研究所客員研究員 六波羅 昭

 元請・下請関係のさまざまな側面についてみてきたが、主要各国ではどうなのか。各国の特徴をさぐってみたい。元請・下請関係は、技能継承の場の歴史、サプライ・チェーンの変化(内生・外注など)、入札契約方式などが相互に影響し合って形成されてきた。元請による直接施工が原則のドイツ、フランスと日本のように下請・専門工事会社の施工割合が大きい英国、米国とは対照的な形であり、ここでは米、独、仏を取り上げる。

1.米国

 米国では建設現場における元請・下請の役割分担が下請契約書で明確であり、下請会社の自立性が高いといわれる。元請・下請間の上下関係や依存関係もあまりないようだ。企業形態をみると、元請・総合工事会社では設計部門や技術開発部門を持たないものが一般的で軽装備であるのに対して、専門工事会社は技術面、財務面も強力で、材料の加工、組立てはほとんど自社設備で行っており、人材・資機材面でも重装備である。現場施工は、ほとんどが専門工事会社の業務に属すため、現場駐在の元請会社の要員はごくわずかであるが、下請・専門工事会社は、仮設事務所から作業に必要な資機材まで持ち込み自己完結能力が高い。民間工事の場合、現場施工はほとんどが下請発注によっているが、公共工事では一定割合(建築で10~30%、土木ではさらに比率が高い)について元請による直接施工を要求する発注者が多く、相応の現場施工力が必要になる。
 一般には協力会などの組織はなく、下請会社の選定は、工事ごとに下請見積りをとって決める。元請会社はそれぞれ地域ごと工種ごとに専門工事会社のリストを持っており、民間工事の場合はこのリストから何社か選んで見積りをとって決める。公共工事は一般競争入札であり、元請会社は入札参加の意思を入札専門紙などに公表すると専門工事会社から見積り提出の申し出があり、期限までに見積りをとったうえで適切なものを採用して入札に応じるという手順になる。マサチューセッツ州の下請入札など発注者が下請見積りを確認する場合もある。
 下請代金の支払いは、月次の出来高払い、下請代金債権保全制度(メカニクス・リーエン、支払ボンド)などにより発注者から元請そして下請にスムーズに流れるようである。

2.ドイツ

 ドイツの職業世界には中世以来のマイスター制度の影響が色濃く残っているといわれているが、建設業においても職業倫理、職業教育などの面で伝統を引き継いでいる。ドイツの建設市場を特徴づける分離発注方式も個々の職業への誇りと独立性というこの伝統ぬきには理解できない。民間工事とくに大型工事ではゼネコンへの一括発注が増加しているとのことだが、公共工事ではほとんどが工種ごとの分離発注である。ベルリン州政府の例では5階建ての庁舎建築の場合、150~200工種に分けて発注することになる。このため、下請施工はきわめて少ない。発注者がそれぞれの工種の施工能力のある会社を選んでいるわけであり、工事の主要部分は元請である専門工事会社の自社施工で、その比率は大型工事でも50%を超える。公共工事では70%以上の自社施工を条件とする発注者が多い。分離発注の場合、各工種間の調整を発注側で行う必要があり発注者の負担が大きい。このため設計から入札、工程管理、各工種間調整を設計事務所あるいはエンジニアリング会社に委託するケースが増えている。
 公共工事の請負契約規則(VOB)では、原則自社施工であるため下請への外注は発注者の書面による同意を得なければならない。この同意の条件として、下請負人が租税及び社会保険料支払い義務を負うこと、代金支払条件等において発注者との間に合意した条件よりも不利な条件を下請負人に課してはならないこと、再下請に出さない措置をとることなどがある。

3.フランス

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 フランスも分離発注と元請会社の自社施工を特徴としている。建設企業の評価システムとして機能しているFNTP(土木工業会)の専門能力証明書、QUALIBAT(建築業者評価機構)の資格証明制度のいずれも自社施工比率70%以上を要求している。これだけの自社施工能力がなければ資格証明が得られない。分離発注もドイツほど徹底してはいないようだが、特に公共工事では分離発注が奨励されている。
 こうした状況のもとでフランスの建設市場は、小規模企業がほとんどの住宅建設市場を除き、数社の巨大企業グループに囲い込まれた形になっている。各グループは、中核となる大手ゼネコンと縦系列化した専門工事会社及び地方ゼネコンからなっている。大手ゼネコンも自社施工能力を要求されるから、自社内に巨大な施工能力(技術者・技能者、設備・機械等)を持っている。大手ゼネコンでは従業員が5~10万人規模になる。したがって、下請発注は自社にない工種の工事ないしは自社能力では不足する場合であり、多くはない。
 元請・下請関係を律する1975年下請法は、発注者が下請代金を直接下請負人に支払うことを可能にしている。同法では、元請は、下請を使うときには下請契約の相手先、工種、金額について発注者の承認と代金支払方法の同意を義務付けており、公共工事の場合は原則的に直接支払が行われる(6条)。民間工事の場合、元請が下請代金の支払催告を受けて1月以内に支払わない場合には、下請負人は発注者に対する直接訴権を有する(12条)。元請は、下請負人から契約を無効にされないために、下請代金支払について銀行保証を取り付けるか発注者による直接支払を受け入れるか、いずれかの対応が必要である(14条)。

(参考資料)
(1)建設経済研究所 「建設経済レポートNo.36」2001年
(2)建設経済研究所 「建設経済レポートNo.51」2008年
(3)建設経済研究所 「第16次欧州調査報告書」2000年

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