歴史資料

絵で見る江戸のくらし ③ 鳶の仕事と町火消

文・絵=善養寺ススム

鳶の仕事と町火消


 

 鳶(とび)の仕事はスカイツリーの天辺(てっぺん)から、足場の設置、基礎工事まで様々でございますね。どんな仕事を専門にする人なのか、建築に関わらない人にとっては、なかなか理解の難しい職です。その割には「大工」と同じで、鳶と言われれば、誰もがわかったような気になるから不思議です。
 鳶は江戸時代生まれです。戦国時代にはお城を作る普請(ふしん)で活躍していた職人なんだそうですが、平和な時代になって職種を変え、やがて「町鳶(まちとび)」と呼ばれる存在になります。
 鳶という名は、高い所で働くことから「空を飛ぶトンビ」から来ているのだろうと思っていましたが、「鳶口(とびくち)」という道具を使うから「鳶の者」と呼ばれたのだそうです。鳶口は材木を曳くなどするのに用います。
 その頃はどんな仕事をしていたかって申しますと、今よりももっと色々な仕事をしておりました。名に「町」が付くのは、その町専任で働くからで、お祭りの準備から町屋の補修まで、高い所や力のいる仕事はなんでもやります。
 普請以外で鳶が大活躍するのは、火事の際の手当や避難です。木造住宅の密集する都市の火事は、あっと言う間に広がります。火事が迫ってきますと、商家では大事なものを蔵や地下室にしまい、戸や窓の隙間を泥や漆喰(しっくい)で埋めるんです。そして、屋根に登って建物に水を掛け、飛び火が点かないようにします。さらに火が迫ったら、持てるだけのものを持って避難します。これにも力持ちの鳶は欠かせません。
 時代が下りますと「店火消し(たなびけし)」が組織されます。この法律は、商家の男性が火消し人足として働くものでしたが、実際の現場では役にたたず、結局は鳶が担うようになりました。これで、多くの鳶が店火消として町に雇われるようになりました。
 鳶が歴史的に脚光を浴びるのは、八代将軍・吉宗(よしむね)の御代です。この時代に儒学者・荻生徂徠(おぎゅうそらい)と町奉行・大岡越前守(おおおかえちぜんのかみ)によって「町火消し」がつくられ、鳶の役目に本格的に「町を守る」という公の仕事が加わりました。
 イラストは『江戸の町とくらし図鑑』に描いた、江戸三大火消し、全ての組みの袢纏(はんてん)・提灯(ちょうちん)・纏(まとい)を描いたものの中からご紹介します、芝・新橋辺りを守る「め組」と「も組」です。袢纏を見ると、町火消しは頭取(とうどり)から人足(にんそく)までの身分があるのがわかります。この組織化には消防の他に、吉宗時代ならでは秘策も込められておりました。
 当時の消防は、消火作業ではなく、建物に飛び火が燃え移るのを防いだり、取り壊したりして、延焼を防ぐのが主でした。焼け死んだり、建物の下敷きになったりすることも多く、根性がないと勤まらない仕事です。有り余った侠気(おとこぎ)を吉宗たちは、町のために使わせたのでございます。
 どんな暴れん坊でも、町のために働いているという自負と、周囲からの感謝があれば悪事なんか働けなくなります。それが人情ってものです。
 さらに、幕末には将軍の護衛や、江戸の治安維持にまで関わるようになりました。これからも、鳶の仕事は活躍の場を広げて行くでしょうか? 将来は、宇宙エレベーターや宇宙ステーションの建設にも関わるようになるんじゃないかと、密かに期待しております。


善養寺ススム


1965年生まれ。『江戸の用語辞典』(廣済堂出版)著者。イラストレーター、江戸研究家。江戸時代に育まれた「江戸の間(ま)思考」を研究。その他『江戸の町とくらし図鑑』『江戸の人物事典』『江戸の女子図鑑』『東海道中栗毛弥次馬と江戸の旅』など

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