歴史資料

入札契約制度の変遷

入札契約制度の変遷

国土交通省  日原 洋文 前 建設流通政策審議官
(一財)建設経済研究所 客員研究員  六波羅 昭
愛媛大学防災情報研究センター  教授 木下 誠也
(一社)長野県建設業協会  会長 藏谷 伸一
(社)宮崎県建設業協会  会長 永野 征四郎

 

入札契約制度を通じてあるべき建設業の姿を示す―国土交通省内幹部による「地域の建設産業および入札契約制度のあり方検討会議」を設置した背景や、検討に際してのたたき台などについての考え方を、前国土交通省建設流通政策審議官の日原洋文氏にお聞きしました。

国土交通省  日原 洋文 前 建設流通政策審議官

─入札制度はどのような変遷をたどってきたのでしょうか。
 「明治33年から指名競争入札が行われた時代が長く続き、平成5年のゼネコン汚職、平行して行われた日米構造協議と世界貿易機関(WTO)への加盟などを経て一般競争入札が導入されるようになりました。誰もが参加できる一般競争入札が広がる一方、品質確保が課題となり、総合評価落札方式を取り入れて対応しようとしてきましたが、建設市場がピーク時の半分に減った状況の中で競争が激化し、ダンピング受注が頻発する事態となっています」
─ダンピング受注が及ぼす影響は。
 「赤字に陥るような応札行動を自社の経営リスクの範囲で行えばよいのですが、実際は、下請けの専門工事業者や現場で働く労働者にしわ寄せがいっています。その結果、若い人が業界に入ってこなくなり、高齢化が進みました。このままでは、10年後に担い手がいなくなってしまうのではないかということが危惧されています。東日本大震災でも業界の弱体化を露呈しました」─これまでも入札制度改革は行われてきました。
 「幾度となく繰り返されてきた改革は、主に不正をなくすために行われてきました。発注者の裁量を減らすのもそのためです。予定価格の情報を得るために不正な動きをけん制する事前公表もそうした視点から、多くの自治体で行われています」
─『地域の建設産業及び入札契約制度のあり方検討会議』を設けた狙いは。
 「社会インフラを維持し、災害にも対応できるようにすることが最大のテーマです。改革理念の一つに『企業評価・選定』を上げたのもそのためで、どういう企業が生き残り、社会資本整備を担ってもらうかを検討していきたいと考えています」
 「これまでは目先にある工事を仕上げるためにどうやって業者を選ぶかということに主眼が置かれてきました。建設業界が供給過剰という前提があり、『よりどりみどり』の中から選ぶことができました。建設業界の担い手がいなくなるという状況の中で工事を発注するには、入札の方式を変える必要があるでしょう。災害対応を含めて、いざという時に頼りになる業者に施工してもらえるようにする方法を模索していきます」

今後の建設産業政策及び入札契約制度の大きな方向性について

─民間のノウハウを生かすことも重要ではないでしょうか。
 「建設業者や建設コンサルタントなど受注者側に技術やノウハウがあるにもかかわらず、それを生かせるような仕組みになっていないのが実情です。発注者が設計し、建設業者がその通りに施工することが本当に最も望ましいサービスとなるのでしょうか。発注者が提示する標準案に比べて多少金額が高くなる内容であっても、高い効果が見込まれるような提案は、現状の制度では出てこないでしょう。技術開発の成果が生かせる付加価値競争ができる仕組みにならないと、企業も開発意欲をそがれてしまいます」
─元請けから技能労働者まで施工体制全体を持続できるような改革理念も掲げています。
 「公共工事設計労務単価を大幅に引き上げたのは、現場の技能労働者に適正な賃金が行き渡るようにしてほしいという思いからであり、一大キャンペーンを張ってそのことを繰り返し訴え、社会保険の加入も促進するように取り組んでいます。入札で落札者を選ぶとき、これまでは元請けとなる業者だけを見てきましたが、その先の下請けとなる専門工事業をどう評価し、どのような過程を経て選ばれているかをしっかりと見ていく取り組みも行っていきます」
─安定的に仕事が出てくる仕組みに対する期待も高いと思います。
 「発注の平準化にも踏み込んで議論をしました。職種にもよりますが、最盛期が過ぎると、失業したように暇になるケースがあるようです。仕事量を一定に保つために、ゼロ国債を活用しながらこれまでも平準化に取り組んできましたが、どれだけの効果があるかを見定めた上で方策を考えていきます」

平成25年6月24日取材

 

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