人材確保・育成

建設産業の人材確保・育成対策

建設産業の人材確保・育成対策

武蔵学園(東京都練馬区) 有馬朗人学園長
(一財)建設業振興基金 内田俊一理事長

 若年者の確保・育成は建設産業界の最重点課題となっています。内田理事長が、根津育英会武蔵学園の有馬朗人学園長をお訪ねし、学校教育と職業に係る現状と課題について伺いました。

人材育成は中学・高校から「職業教育」の質量アップを望みたい

[18歳人口と大学(学部)進学率(過年度高卒者等を含む。)]

少子化、学力主体の教育、誰もが大学へ行ける時代に

有馬朗人学園長内田 現在の日本には、大卒者のほぼ半分、高卒の若者の6割以上が、いわゆる会社の正社員として社会に定着できていない状況があります。学校から社会へと若者を引き継いでいくシステムが上手く機能しなくなっているようにも思えます。有馬先生は、どこに問題があるとお考えでしょうか。
有馬 ゆとり教育が始まった頃、平成元年に200万人いた18歳の人口が、今は120万人。全員が就職したとしても6割減少しています。それが原因の一つ。少子化の問題点として学力低下が指摘されることも多いですが、ここに至った背景として、中曽根元総理大臣が始めた「ゆとり教育」の影響と言われています。
内田 その頃から土曜日が休みになりましたね。
有馬 世の中には、ゆとり教育が学力低下を招いたといった指摘もありますが、それは違うと思います。確かに、大学生の学力の低下は明らかですね。それに対して義務教育の小・中学校の学力はむしろ向上しています。
内田 そうなんですか。
有馬 5年に1回実施される「TIMSS (ティムス)」という国際数学・理科教育調査をご存知ですか。国際教育到達度評価学会(IEA)という団体が小4と中2の生徒を対象に行う国際比較教育調査です。世界40カ国ほどの国々が参加していますが、日本の子どもの成績は悪くないですよ。中学生の学力は、2003年数学5位、理科6位、2007年それぞれ5位、3位、2011年それぞれ4位、4位と高位を保っています。小学生も2011年50ヶ国中算数5位、理科4位です。むしろゆとり教育になってから学力は上っているくらいです。総合的学習の効果でしょうか。
内田 では、なぜ学力が下がったと大騒ぎになったのでしょうか。
有馬 一番の問題は、大学生です。なぜかと言うと人口が減る一方で、逆に規制緩和が働いて平成5~6年の頃から大学がどんどん新設されました。18歳が200万人いたときは4人に1人の割合で大学に行ったのに、今は2人に1人ですよ。そうなると学力の低い若者でも大学に入学できるようになり、大学全体の学力レベルが下がってしまったということです。
内田 なるほど。
有馬 大学の敷居が低くなり、かつては商業高校、工業高校などの専門(職業)高校に行っていた若者たちも大学を目指すようになり、専門高校に行く人が激減しました。これによって専門高校の全体的なレベルが下がった。大卒の方が将来的に高収入といった誤解もあって、親御さんは学校に対して学力主体の教育を望んだ結果、この20年ほどで専門(職業)高校の多くがかつての魅力を失ったのは事実だと思います。

職業教育のカリキュラムを制度化すべき

トライやる・ウィーク

地域に学ぶ「トライやる・ウィーク」10年目の検証報告書
(出典:兵庫県教育委員会事務局義務教育課ホームページ)

内田 元気な職業教育機関はどこでしょう。
有馬 大学や職業高校の代わりに注目を集め、職業的な能力開拓に一生懸命な若者が集まっているのが専門学校ですね。私はここを大きく伸ばすべきだと思っています。制度的な部分でも専門学校を盛り上げることが、今の職業教育を立て直す一つの方法ではないでしょうか。
内田 大学は絶望的ですか。
有馬 もちろんすべての大学がダメというわけではなく、職業訓練をカリキュラムに取り入れている学校もいくつかあります。中でも優秀なのは、厚生労働省がやっている「ものつくり大学」ですね。建築に関係するところでは、高校教育に2年付け加えて一貫教育を行う工業高等専門学校。非常に優秀です。工業高等専門学校は現在、全国で62→57校(国立55→51校、公立5→3校、私立3校)が設置されていますが、これをもっと増やすべきだと思います。
内田 そんな状況下、2年前に文科省から「学校教育でもう少し職業教育やキャリア教育を」という方針が出されました。これから変わるのではないかと期待しているのですが、その見通しはどうお考えですか。建設産業側はどういったお手伝いをしたらいいのでしょうか。
有馬 学生を受入れる側の協力が重要だと思います。その一例として紹介したいのが、兵庫県の「トライやる・ウィーク」です。これは、1995年の阪神・淡路大震災、1997年の神戸連続児童殺傷事件を機に、中学生の心の教育の充実や地域の子どもは地域で育てようという趣旨から、県内の中学2年生を対象として1998年度から実施されている社会体験活動です。県の取り組みに対して、商店や消防署などが積極的に子ども達を受け入れています。
内田 自治体の主導で職場体験が進めばいいですが、学校単体では難しいという話はよく耳にします。
有馬 学校側にも、親御さん方にも問題があります。なぜかというと、親御さんは学校というのは勉強する場所だと思って、我が子の成績が上がらないとクレームになる。職業訓練に時間を取りにくい雰囲気があるんです。個人的には、中学校でも普通の高等学校でも職業教育のカリキュラムを、それも正式に国の制度として組み込むことが理想だと思います。農業でも商業でもいい、いくつかのコースを作って週に1~2回のカリキュラムを制度化すべきです。
内田 確かに制度化は必要かもしれませんね。私も工業高校の先生とお話しする機会がありますが、自分の子供を大学に進学させたいという強い希望を親御さんがもっておられるという話はよく耳にします。実業教育に時間が取りにくい空気が校内にあることは事実だと思います。夏休みに我々の職業訓練校(富士教育訓練センター)に自ら研修を受けにこられる先生方もいますが、正規のカリキュラムではないので休暇を取って自腹でというケースがほとんどですよ。

 

[就職率(年代別)]

待遇面での高卒・大卒の格差をなくせばいい

内田 先ほど大学の職業教育が絶望的と話がありましたが、現実的に、中小企業からゼネコンまで大学卒の若者が入社しています。産業界の側から大学の職業教育を活性化していくためにお手伝いできるとしたら、どのようなことでしょうか。
有馬 現場でゼロから何かをつくる、その面白さをもっと伝えていくことが必要でしょう。もう一つは、待遇面ですが、高卒でも優秀な人は大卒と同等、あるいは同等以上に貰えることが世間に広まれば変わりますよ。待遇面をきちんと見直して、「なるほど職業教育をちゃんと身に付けると待遇面でもメリットがある」ということが明確になってくると社会の見方が一変するでしょうね。
内田 ということは、大学生でも大学の時代に現場教育を受けている人は採用のときに有利にするとか、給料を少し高くするとか、そういうことでしょうか。
有馬 ええ、その通りです。テンプル大学だったか、工学部は5年制にしている大学があったと思います。1年間はインターンシップとして企業でOJTをやります。だからそれにならって日本の大学の工学部でも1年間はインターンシップ制を導入すればいいと思う。その制度の中で優秀な人材は社員として高給で採用すればいいんです。

産業界が本気になってリーダシップを握ってほしい

内田俊一理事長内田 建設業界の経営者はかなり真剣にこの問題を受け止めていて、特に地方都市の建設業、専門工事業の社長さんたちの中には若者をしっかりと確保し育成していく取り組みを始めているところもあります。そんな社長さんたちに何かメッセージをいただけますか。
有馬 優秀な人材だと思ったら、そして「さらに勉強したい」という向上心のある人なら、会社の経費で学校に行かせるくらいのことはやってほしいですね。30歳になってからでも2年くらい大学に行ってこい、海外の大学でもいい。それくらいのつもりでやりなさいと。
内田 一旦高校卒業段階で採用してから大学に戻すということですね。「とりあえず大学進学」という風潮に一石を投じる意味でも魅力的なアイデアだと思います。大学でなく専門学校という選択肢もありますね。
有馬 高等専門学校をもっと改革して職業につながる大学にしてもいいと思いますよ。ただし、なかなか国が動かない。とにかく若者に魅力のある職業的な技能や知識を早く身に付けさせるように努力していただければありがたいです。それには産業界が本気になってリーダシップを握ってやってくれないとうまく行かないでしょう。
内田 専門学校の中でも、しっかりとした教育をやっているところは、実は新制大学への移行を断っているそうです。自分たちはこの道で行くと。そういうところはしっかりやっておられますね。
有馬 そういう志の高い学校を大切にしてほしいですね。
内田 ベテランの人に聞くと、昔は高卒の技術屋というか、プライドを持っている人が大勢いて、「大卒に負けるものか!」と張り合っていた……。そういう気概が今はないみたいですね。
有馬 その気概を復活させるためにも、ぜひぜひ職業教育の充実にご尽力いただければ幸いです。
内田 分かりました。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

有馬朗人氏 プロフィール

昭和5年9月13日生まれ。昭和28年東京大学理学部物理学科卒。昭和50年東京大学理学部教授、平成元年東京大学総長を歴任。平成10年参議院議員・文部大臣、翌年より科学技術庁長官兼務。財団法人日本科学技術振興財団会長などを経て現職。2010年文化勲章受章。


 

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ

最新の建設業しんこう

PR

建設業の経理 No.63 2013特別号

建設業の経理
No.64
2013秋号

新連載「建設業経理士検定試験の過去問演習講義」「人を大切にする建設業 人事・労務管理の実践」「全社で学ぼう!知っておきたい法律知識」