企業経営改善

建設生産システム再考

第6回|簡素で高質・効率的な生産システムの構築 ―重層下請構造をどうするか―

(一財)建築経済研究所客員研究員 六波羅 昭

 これまでに扱ったマネジメント・コントロール、情報化施工などのテーマは、建設生産システムの構成員相互間の設計・施工・コスト・利益などの情報共有を基礎にして、建設生産の質と効率の向上を狙っている。建設生産システムのパフォーマンスをさらに引き上げようとすれば、内部組織の簡素化により情報交換を迅速化し、それぞれの役割と責務をわかりやすくすることが効果的で、そのためには重層下請構造の是正が必要になる。同一の工事において何回も繰り返される契約に伴う無駄な取引費用、発注者や元請会社などから見えない取引による信頼に欠ける業者介入のリスク、元請・下請間の意思疎通の困難さ、品質の低下、安値による下請発注が現場就労者の賃金を削り社会保険料等を支払不能にする恐れ等々その問題点はいくつも指摘できる。ここでは、これまでの建設産業政策において、重層下請問題はどのように扱われてきたのか見ておこう。

  建設産業政策大綱 1995年(平成7)年 以前

 1988(昭和63)年5月にまとめられた中央建設業審議会第三次答申「今後の建設産業の在り方について」をみると、「一括下請、不必要な重層下請を排除するためには、元請は優良な下請業者を選定しつつ、下請業者の施工形態を的確に把握する必要がある」としている。そして、下請の「施工形態等を十分に把握するために、下請企業の概要、工事の内容等を記載した下請台帳(仮)の作成を義務付ける等の方策が必要である」としており、この「下請台帳」の提言は平成6年の建設業法改正において施工体制台帳として実現した。
 1995(平成7)年4月の「建設産業政策大綱」では、重層下請の問題を主としてペーパーカンパニー等施工能力に欠ける者の参入問題ととらえて、企業評価制度の厳正・充実化を課題とした。また、重層下請の末端に位置する一人親方など自営業者について、建設技能者にとっての目標のひとつと考えることができ、労働福祉など基礎的条件を前提として「意欲ある自営業者の活用」を図るべきとしている。

建設産業政策2007

 「建設産業政策2007」が策定された2007年度には、建設投資額は48兆円まで低下し、10年前の1997年度の75兆円と比べても約6割の規模で、供給過剰から競争激化、価格低下が進んでいた。「建設産業政策2007」では、「ペーパーカンパニー等の不良不適格業者の存在をはじめ、一括下請、技術者の不専任、書面によらない契約、指値発注、赤伝処理、不当な減額による不当な低価格での下請契約、社会保険、労働保険の未加入等」を具体的な法令違反行為としてその是正を図るために、企業の経営者に法令遵守の徹底を求めている。

 

 建設産業の再生と 発展のための 方策2011以降

 建設投資額は、2010年度には41兆円まで落ち込んだ。この前年には(社)日本建設業団体連合会と(社)建設産業専門団体連合会から相次いで提言が発表されたが、両提言とも重層下請是正を最重要課題としている。日建連提言は当面3次まで、5年以内に2次までとする重層是正の目標を初めて示した。建專連は品質・技術重視の入札制度の拡充、コア技術者の直接雇用の推進、社会保険加入を前提とした技能者の流動化・就業確保等を具体的な提言内容としている。
 こうした状況下で策定された「建設産業の再生と発展のための方策2011」は、建設産業が直面する課題として「重層下請構造」を取り上げ、実施すべき対策として、

●保険未加入企業の排除
●重層下請構造の是正と施工力のある企業の育成

を挙げている。

 その具体的手段としては、行政による一律の下請次数規制ではなく、当事者の下請契約の必要性、違法性のチェック、施工力のある企業の選定、工事の平準化等自主的取り組みが望ましいとしている。ただし、その前提として請負及び雇用に関するルールの徹底を通じてその適正化に取り組む必要があり、とくに社会保険未加入企業の排除によって請負から雇用への移行を促すことで、重層下請是正の効果が見込まれるとしている。
 以上のように、「方策2011」は、社会保険未加入企業の排除という具体手段を提示し、当面、発注者、元請、下請それぞれの責任分野でこれに取り組むという方向を明示し、行政、公共発注者、関係業界団体がそれぞれの行動を始めることとなった。

 社会保険加入の 徹底による 重層下請是正

 重層下請に対するこれまでの取扱いをみてきたが、微妙に変化してきたことがわかる。下請取引自体は自由な経営判断としてなされるものであるから、一括下請、不当な低価格契約など法令違反でなければ、施工の効率化に資するものとしてとらえてきた。当事者関係の片務性が赤伝処理や低価格のしわ寄せなどの原因となっている実態から、片務性是正のために法令改正等を実施してきた。  独立自営業者(一人親方)の増加に関しても、かつては技能労働者のキャリアの目標として肯定的に理解されてきた。  しかし、建設市場規模の縮小、供給過剰と価格低下の進行とともに雇用に伴う社会保険費用の負担回避のため、技能労働者を解雇して労務請負化への移行が激しく進み、これによる重層下請の深化と社会保険未加入者の増加があからさまになってきた。そこで、社会保険加入の徹底を手段に、技能労働者の労働条件の改善と重層下請の是正を進めようとしているのが現状である。この問題の根底には、工事価格の低下と下請へのしわ寄せがある。社会保険加入の徹底の効果を上げるためには、極端な低価格受注の排除と同時に工事見積り及び支払工事費に社会保険料が計上されていることを発注者、元請、下請ともに確認することが大前提となろう。このために国土交通省は、元請団体・専門工事業団体・労働組合・発注者などで構成される「社会保険未加入者対策推進協議会」を設置して検討してきたが、2013年9月23日の協議会で、法定福利費を明示した標準見積書の使用の徹底を申し合わせ、直ちに実施に入った。  下請次数制限について「方策2011」は、行政による一律次数制限ではなく関係者の自主的取り組みが望ましいとしている。日建連の「当面3次まで5年以内に2次まで」とする削減目標はあるが、社会保険加入の徹底を武器にどこまで近づけるかわからない。欧米、韓国などでは、下請について発注者の承認あるいは次数制限等により不必要な下請排除を行っている。生産システムの採算性向上のためにも、下請発注に関して元請及び発注者の関与を求め、不必要な下請排除の徹底を図るべきである。

ページトップ

最新記事

最新記事一覧へ