企業経営改善

建設生産システム再考

第4回|建設生産システムのマネジメント・コントロール

(一財)建築経済研究所客員研究員 六波羅 昭

 建設生産システムの規模が大きくなるにしたがって構成員の数も増えて、全体を管理することが難しくなる。経営組織の管理という視点から建設生産システムを考えてみよう。
 ひとつの企業を考えてみても、企業組織が大規模化するとともに企業内外の多くの組織の協働が不可欠になる。経営目標を実現するためには、分業化し多様化した組織を目標実現に向けて束ね、全体目標と部分目標の斉合を図る経営管理すなわちマネジメント・コントロールが重要になる。
 マネジメント・コントロールは、基本的には内部統制下にある組織体すなわち企業内部の各部門を対象にする考え方であろうから、元請会社、下請会社、再下請会社など独立した多くの企業からなる建設生産システムにそのまま適用することはむずかしい。しかし、経営目的の達成に向けて組織構成員を動機付け、望ましい行動を引き出すというマネジメント・コントロールの基本的なプロセスに着目すれば、建設生産システムにおいて何をすべきか方向性が見えてこよう。

建設生産システムにおけるマネジメント・コントロールのプロセス

 経営組織の生産効率・効果を高めるためのマネジメント・コントロールは、具体的には次のプロセスを繰り返し行うことにより成果を得る。建設生産システムに関しても同様であり、建設生産に即して具体的な内容を検討してみよう。
①適切なシステム構成員の確保と合理的なシステム形成
 経営組織の成果は構成員の能力と意欲そして方向性によって決まる。したがって構成員の選択はきわめて重要なプロセスである。建設生産システムの場合には、発注者、元請会社、1次下請会社などが生産システムにおける自己の責任を果たすために必要とする構成員の属性(効率性、技術・技能のレベルなど)、施工期間などを勘案したうえで適切な選択方式(入札方式、随意契約など)を採用して構成員を確保することとなる※1。生産システムの合理的、効率的運営を可能にするためには、施工情報の共有、各構成員の役割と責任の明確化、双務的な契約条件の実現が欠かせない。不要な重層下請の排除、公正な請負契約の締結などにより簡素で俊敏なシステム形成が可能になる。
②適切な部門目標の設定と全体の施工目的、施工条件など基本情報の共有
 契約締結後、着工前に発注者の建設プロジェクト発注の意図、目的及び施工条件などを確認し、関連情報を共有することが生産システムのスタートになろう。この段階で各構成員の役割と責任そして全体目的との関係を明確に示し、システム構成員全員が理解することにより部門目標達成への動機が形成される※2
③各部門の業務執行と業績の把握および部門目標と業績の比較
 着工から完成まで月次など定期的に施工実績(出来高及び原価)を把握し、同時にこの過程における問題の発生と解決方針を確認し、部門目標の達成に向けた行動につなげる。
④目的斉合的な行動を促す動機付け
 システム構成員が目的達成に向け自己の役割と責任を果たす行動をとるように促す動機付けについては、
(a) 発注者・設計者・施工者のリスク分担のルール化・明確化、
(b) 目的達成に向けたVE(バリューエンジニアリング)などの技術提案を挙げることができる。

個別工事プロジェクトの会計情報システム(管理会計システム) 建設産業では、個々の工事プロジェクトの進行を会計数値で把握し、当初見込まれた原価と利潤の実現又は改善を図る目的で会計情報システムが構築される。数多くの工事プロジェクトを擁する建設会社では、これら多くの現場の会計情報を集合して(さらに間接部門サービスを加えることで)企業活動全体をいつでも会計数値で押えることができる。
 図1は、大手ゼネコンT社の事例を参考に、工事経理情報システムのうち個別工事経理システムの構成を例示したものである。T社では工事経理システムから得られた実績原価データを集約し、共有することで設計、積算へフィードバックする原価情報総合管理システムを構築している。
 一方で、建設工事の現場は、建設生産システムが稼働する事業所であって、独立した複数の企業がシステムの構成員となって協働している。建設生産システムの会計情報システムは、システム構成員それぞれの当該工事に係る会計情報を集合し分析するものといえよう。集合体であるこの会計情報システムの主要な目的は、建設生産システム全体及び部門ごとのコスト管理と採算管理であり、システム構成員それぞれのコスト情報の開示・提供が前提となる。このような建設生産システムの会計情報を扱う情報システムの実現はまだ先のことだろうが、実現すればWIN-WINの事業成果が期待される。
 なお、オープン・ブック等による構成員企業のコスト情報開示・提供については、前回取り上げた有機的な相互関係づくりが前提となろう。情報開示を契約条件などとするためには、情報内容とその取扱いを明示すること、及び公正な利益配分ルールなど開示への積極的な動機付けを用意することが必要である。

サプライチェーン・マネジメント

 最後にサプライチェーン・マネジメントについて簡単に触れる。従来、サプライチェーン・マネジメントは物流や在庫の情報管理手法として用いられてきたが、近年では、生産、販売、物流という企業活動のモノを扱う分野全体を対象に、適時・適量生産販売を目的に機能拡大が図られている。
 そのポイントは、図2の通りであり、このために関係者がコスト情報を含めて情報を共有することが不可欠である。建設現場では、最終工程にあたる塗装、仕上げ工事に時間的なしわ寄せが常態化しており、これら業種の深刻なリスクとなっている。サプライチェーン・マネジメントにより各工程の作業時間の計画管理がよりスムーズに行われることの効果は大きい。

※1 日本の自動車メーカーの部品調達システムは「長期的安定取引」、「少数者間の能力構築競争」、「まとめて任せる」の3点セット、三種の神器に支えられている。藤本隆宏「日本のものづくり哲学」
※2 全体目標、部門別目標に関しては、英国のパートナリングで標準的に用いられる次の共通目標が参考になる。
①作業効率、②コスト削減、③コスト実現、④工期遵守、
⑤安定した標準作業量、⑥リスクの適正配分、⑦設計情報の信頼できる方法による伝達
※3 浮田萌男「建設業におけるコンピュータ管理会計システムー個別工事情報システムを中心にー」日本管理会計学会誌『管理会計学』第1巻第1号(1992年秋季号)を参考にした。また、本論文が扱うT社の現在の会計情報システムについて担当部門の方々から説明を頂いた。

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