企業経営改善

建設生産システム再考

第3回|建設生産システムの有機的構成―契約関係と契約外関係 ―

(一財)建築経済研究所客員研究員 六波羅 昭

システム構成員の相互関係

 建設生産システムの構築は、長期的な視点からみると、発注者・オーナー内部組織による直営の時代に始まり、年季を積んだ技術者、技能者が独立して仕事を請ける形になるなどで中間組織である系列企業あるいは施工協力会が中核になる時代を経て、近年は仕事の発生の都度市場から調達する市場調達中心の時代へと変わってきている(図1)。
 システム構成員は、発注者・オーナーを中心にして、設計者、CMR、元請施工者、下請施工者、資材・機材供給業者、建設技能者などからなる。これらの相互関係に注目すれば、現在みられるものは、①施工協力会のように長期取引を前提にした相互関係、②市場調達の場合の契約関係の2つに分けられる。
 建設生産システムの成果を高めるためには、システム構成員相互間の優れた有機的関係を作って維持することが望ましい。「建設工事の生産性を阻害する要因」を聞いたアンケート調査結果(図2)をみると、問題のほとんどが発注者、設計者、施工者間の設計・施工情報の偏在すなわち情報共有に欠けているところから発している。
 内部組織⇒中間組織⇒市場調達の順に外部化が進み、相互関係が契約条項に基づくことになるとともに、構成員相互間の関係が敵対的なものになりやすい状況に陥る。システム構成員間の有機的な関係を構築して、コスト、品質、工期、利益等で示される生産システムの成果を高めるための方法を検討する。

 

有機的関係(パートナーシップ)をいかに作り出すか

契約外の協調的相互関係

 契約によらずにシステム構成員相互のパートナーシップを構築する方策の得失を考えてみよう。系列企業や施工協力会など中間組織の場合には明確な契約条項があるわけではないが、長期取引を前提にした上意下達の慣行的契約によって組織内部の秩序が維持されている。この場合は事業継続が大前提であるものの、施工情報の共有などシステム運営上の重要な決定は元請会社の意思にゆだねられており、下請会社などのシステム構成員にとっては過大なリスクを負うことになる。発注者と元請会社の間で工期や設計の変更あるいは契約金額の変更協議が不調に終わり、元請会社が過度のリスクを背負った場合、下請会社はそのしわ寄せを受けてしまう。建設需要拡大が続く状況であればしわ寄せによる赤字はいずれカバーできるであろうが、現在の建設市場はそのような期待を受け入れる環境にはない。長期取引と事業継続を前提とした中間組織であっても、建設生産システム間の競争に備える必要があり、システム内部の構成員間競争を仕組んでいかざるをえない市場環境にある。

契約による相互関係

 この場合には、設計の趣旨・理念、施工条件などを仔細に記述するとともに、契約当事者それぞれの責任、リスクを極力明確にして争い発生の可能性を少しでも小さくしておくことが大事である。しかし、建設工事契約は典型的な不完備契約であって、時間の経過とともに施工条件の変化など契約内容の変更につながる事態が発生することは避けられない。だからこそ契約変更を迅速にかつ円滑に行えるような生産システム構成をあらかじめ用意しておくべきである。FIDIC約款に登場する「エンジニア」及び「紛争裁定委員会」はまさにこのための存在である※1
 日本の標準請負契約約款には、施工管理の一環として第三者が介入して紛争解決を図る仕組みがなかった。しかし、近年、いくつかの点で改善がなされている。一つは、ワンデーレスポンス、設計変更協議会などの取り組みが国をはじめ公共発注機関の主導の下で急速に普及してきたことである。関係者間のコミュニケーションを密にかつ迅速に行う大きな意味がある。さらに、標準約款が改正されて、調停人が当事者間の協議に加わることが可能になった。当事者間に契約条項に関する考え方の差があれば、適切な助言をして紛争に至るのを防ぐ役割を持っている。
 国土交通省では、FIDIC約款の趣旨を極力取り入れた契約管理の試行を行っている。契約、支払などについてFIDIC約款にならっており、発注者と契約した「第三者技術者」が「エンジニア」の業務を行う形を用意している。こうした試行の広がりによって、海外工事約款に慣れるだけでなく「第三者技術者」の人材育成や双務的契約管理のもとでの発注者、受注者間の有機的関係づくりを学ぶことにもなろう。

パートナリング

 米国、英国などでは、相互不信頼のもとで契約条件に示される契約当事者の義務と権利を遂行することで契約の成果を確実にしようとする。その結果、クレームにより権利を主張することで成果を増やそうとする過剰な行動が、工期の遅れやコスト増という弊害を招くようになった。この問題への対処方法として、当事者間の協力による成果実現のために、情報共有のためのワークショップの運営、達成目標の設定、成果の配分方法の明示などを内容とするパートナリングの手法が開発された。パートナリングの合意内容や取決めの法的効力に着目すると、契約外の米国のパートナリング憲章の例と契約に基づく英国などの例がある。米国のパートナリング憲章は、契約外の自主的宣言という位置付けのようであり、関係者間の連携・協力のための行動規律を文書化したものである。契約変更が必要になれば契約書に従って変更手続きをとることになる。英国では、パートナリングの効果を確実にするために、パートナリングを契約の内容とする約款を使用している。オーストラリアのアライアンス契約も広範な協力関係を契約条項としている例である※2

※1 FIDICでは、1999年に刊行した新「建設工事の契約条件」(ニューレッドブック)において、「エンジニア」は発注者の代理人としてのみ機能し、紛争裁定は新たに設置する「紛争裁定委員会」が行うこととした。紛争裁定委員会の委員は単独又は3名で、当事者の合意によって決める。
※2 アライアンスは、「2社以上で合意された共通の成果達成のため、リスクとリターンをシェアすることを前提として、一致協力し業務遂行を約す協定である。その実行にあたっては誠実の精神に基づくこと、すべての費用はオープンブックであることが前提である。」出所:(一財)海外建設協会「海外に学ぶ建設業のパートナリングの実際」

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