企業経営改善

建設業経営者インタビュー

「サービス世界一」を掲げ、赤字続きの町営温泉施設を再生/経営者インタビュー | 相馬康穫さん(青森県)

プロジェクトおおわに事業協同組合 副理事長
青森県中小企業家同友会理事
そうまや屋米酒店代表
相馬 康穫 氏

コミュニティビジネスと、ふるさと教育を連動させ、“日本の田舎町再生のお手本づくり”
~指定管理料ゼロ円で、町の複合施設を黒字化。攻めの経営で雇用も拡大!~

相馬康穫さん

相馬康穫さん

プロフィール/1965年生まれ。
プロジェクトおおわに事業協同組合 副理事長。
青森県中小企業家同友会理事。
そうまや屋米酒店代表。

プロジェクトおおわに事業協同組合
本社  青森県南津軽郡大鰐町大字長峰字下川原9-92
創業  2009年2月20日
スタッフ数 約50名(2012年12月1日現在)

 

●事業の背景

 大鰐温泉は、開湯800年の歴史を持ち、津軽藩の奥座敷として発展した「スキーといで湯の町」。大鰐温泉スキー場の利用者は1990年度の約38万人から、2009年度は約7万人に激減。大鰐町は、バブル期のリゾート開発の失敗もあり、財政が逼迫、早期健全化団体となった。このような状況の中、町は赤字運営をしていた温泉複合施設、大鰐町地域交流センター「鰐come(わにかむ)」(2004年オープン)の管理を指定管理料0円という条件で募集。地元有志で設立した「プロジェクトおおわに事業協同組合」が2009年から指定管理者となり、初年度から黒字化に成功。昨年度には、青森県知事から「第1回 あおもりコミュニティビジネス表彰 最優秀賞」を受賞した。
 参入にあたって、多くの町民から「失敗したら町に居られなくなるぞ!」という言葉もかけられたそうだ。どんな思いがあったのか、副理事長の相馬さんはこう語る。「地域を再生するのは、私達地元の人間でなければという強い思いがありましたが、理事5名は、金銭的な責任も負うため、それぞれの家庭で家族会議をして覚悟を決めました。今でも我々の取り組みに対する反対勢力がいるのも事実です。それも、まちづくりは、毎日がオセロゲームだ!と思い、一切ぶれずに“人生掛けて”挑戦中です。」オセロの黒が白に変わる瞬間は快感だそうだ。「全ては、次代のふるさとのために!」という揺るぎない信念があればこその言葉だ。

●「サービス世界一」を掲げ

ひらめきノート

 町営時代に足りなかったものは「ホスピタリティ」であることは明確に意識していたという。指定管理業務を受託する際に、従業員40名の継続雇用も町の条件だった。サービス向上でなすべきことは、第一に従業員の意識改革であると考えた。掲げた目標は、「サービス世界一」。大手百貨店の「カリスマ販売員」を招聘し、「本物のサービス」を、マンツーマンで従業員に指導してもらう研修も実施した。「サービス世界一」が、単なる標語ではなく、実践すべき目標であることが、徐々に従業員に浸透していった。
 「朝礼」と「ひらめきノート」は、業務を開始した日から、継続している。朝礼は、施設の外からも見えるよう「公開」で実施。1日も欠かしたことがない。相馬さん曰く「朝礼を欠かした日はありませんが、話したいことは尽きません。各スタッフにも、前日の入浴者実績、各部門の売り上げ、それぞれの前年対比などを報告してもらい、全員が、その情報を共有しています。さらに連絡事項、良かった点、クレーム処理、今日の目標を述べてハイタッチで営業をスタートします。」また、「ひらめきノート」は、相馬さんをはじめ、従業員全員が常にポケットに携帯。サービス向上のアイデアがひらめいたら30秒以内で書き留める。ここから様々なアイデアや工夫が生まれている。

●顧客ニーズの追求が新商品の開発を生む

 青森県は、温泉大国で、マイカーに「お風呂セット」を常時積んでいる人も多いほど温泉好きが多い土地柄。大鰐温泉町の周辺の市や町にも日帰り温泉施設は多数あり、ライバルが多い「温泉激戦区」である。
 指定管理者になって、最初に手懸けたのは、地元の私鉄である弘南鉄道とコラボレーションした割引券「さっパス」の発行だ。往復乗車券と入浴券、200円分の買い物券、マッサージの10分延長券を付けてトータル2,500円相当のものを1,000円で販売。月平均で400万円の売上があるヒット商品となっている。単純に割り算すれば、1日約130人がこの券を利用している計算だ。相馬さんの発想はこうだ。「電車は、スキー場のリフトと同じで乗客がいなくても固定費がかかる。田舎はクルマ社会だが、「鰐come」は、大鰐温泉駅から歩いて直ぐの立地。車が運転できないお年寄りにリピーターになってもらえるし、電車で来場すればビールも飲める。「移動はクルマ」という固定観念を変えたかった。」弘南鉄道とは、初回の打合せですぐに大筋で合意、2ヶ月後には商品化できたそうだ。
 館内には、レストランの他、ファストフード店「うぇるかむ」を開設。地元食材を活かしたジェラートやスイーツを販売している。元々はレンジでチンするメニューしかなかったが、改装してガスが使えるようにした。温泉で汗をかいた後のこだわり津軽路ビールやスイーツは格別おいしい。さらにエステや整体、あかすり、塩の部屋「いやしんす」でリラックスしてもらえば、ゆったりとくつろぐことができる。長い時間、館内で過ごしてもらえば、さらに飲食や物販の売上にも貢献する。
 相馬さんは、自らの戦略についてこう語る。「我々の戦略は、価格競争に参入せず、サービスの質で差別化を図ろうというものです。回転率を上げることよりも、ゆっくりとくつろいでもらい、満足度を高めることが、お客様本位のサービスだと考えています。」
 地元産の野菜の販売も好調だ。当初、町の農家約100軒に、野菜の直販をやりますから協力して下さいと声をかけた。最初に協力してくれた農家は46軒だった。気になるJAとの関係だが、相馬さんは、「JAとは競合していません。農家の方には、JAにはこれまでどおり、A級品を出荷して下さいと言いました。我々の狙いは、JAの規格に乗らないB級品を商品にしようというものです。B級品と言ってもJAの規格に乗らないだけ。せっかく新鮮でおいしいのに、自分の家で食べたり、配ったり、余れば捨てられていました。」農家の方からは、おかげで孫に自動車を買ってあげた!と喜んでもらっているそうだ。現在、協力農家は100軒を超えた。
 建設業の新分野進出において、販路拡大を課題に挙げる企業は少なくない。相馬さんに伺ったところ、週末になると、秋田・岩手・宮城・福島など県外ナンバーで、ほぼ満員になるそうだ。「近隣県の方は、プチ旅行気分が味わえるのでしょう。それでも、まだまだ売り込み不足を感じています。先日は、埼玉県の川越に営業に行って来ました。函館も電車で片道3時間の距離なので、近く営業に行こうと思っています。」さらに、相馬さんはサラッと言う。「販路拡大に困ったと思ったことはありません。こんな性格なもので、東京の有名百貨店だろうが、どこだろうが、物怖じせずに、売り込みに行きます。」
 

●コンセプトは、「持続的に利益を生み出し、地域貢献する、まちづくり会社」

 まちづくり、地域おこしには、「よそ者・若者・ばか者」が必要とよく言われる。また、関係者間の意思決定に時間がかかる、責任の所在が曖昧になるなど、一つにまとまることが難しいケースも多い。その辺りの問題はないのか伺ってみた。「理事長は、りんご農家。自身は酒屋。専務理事は宿屋さんですが、もともと、長い間、町の再生について語り合ってきた仲間ですので、話をしなくても互いの考えがわかる間柄です。三役とも県内の出身ですが、理事長は近隣の町の出身ですし、私は親が樺太帰り、専務理事は、スキーのインストラクターもしていますが、大鰐温泉のスキー場が好きで移り住んで来た方。800年の歴史のある町からすれば、よそ者かもしれません。気持ちはみんな若いですし、地域再生のために馬鹿になれるばか者です。」
 将来の町を背負う人材の育成にも力を注いでいる。地元小学生は5年生になると「OH!!鰐元気隊キッズ」に入会。児童たちは、一人一人手作りの名刺を持ち、東京のアンテナショップに自ら作った野菜を販売に行く。「大企業の役員にも堂々と町のセールスをしています。」と目を細める。「大鰐は“第2の夕張”と呼ばれることもあるが、悪いイメージを子供たちに持ってほしくありません。自分の町に自信と誇りを持ってもらいたい。」まちづくりは人づくりであり、「ふるさと愛」が将来に渡っての原動力になるという相馬さんの思いだ。
 町の特産品として「大鰐温泉もやし」のブランド化も手懸けている。その栽培方法は、「一子相伝」で、400年近く生産農家の中で代々受け継がれてきた。温泉熱を利用し、土工栽培するため、非常に手間暇がかかる。テレビで取り上げられたことで、問い合わせが増えたが、同時に偽物も出回り始めた。そのため商標登録をしようと出願するものの特許庁からは、拒絶通知が何度も送られてきたそうだ。弁理士に相談したところ、これは、もっと多くの資料を提出しろとの意味だと助言を受けた。江戸時代からの文献も調べるなどの苦労が実り、2年かかって、やっと商標登録ができた。「東京の有名百貨店や一流レストラン、超高級ホテル等が納品先です。大鰐温泉もやしの価値とストーリーに共感して頂ける方に扱ってほしい。ブランド価値を高め、将来は、ポルシェに乗るような生産者を育てたいと思っています。」相馬さんが描く未来の大鰐町の姿は、確実に今と直線で繋がっている。「プロジェクト」は、まだ始まったばかりだ。

経営のポイント
ふるさと再生の為、”人生賭けて”本気の経営。(コミュニティビジネスの手法を用い、“日本の田舎町再生のお手本づくり”。)
接客・ホスピタリティ・クレンリネス共“世界一”を目指す、鰐come流社員教育。
朝礼とメモ帳で、企業(地域)は大きく変わる。(意識改革と継続、そしてアイデアを形にすることで、人づくり、そして、まちづくり。)

 

 

第17回建設業経営者研修のご案内

第17回建設業経営者研修

建設投資、とりわけ公共投資の大幅な縮小によって、建設業の経営環境は厳しさを増す一方である。建設業には、従来型の「請負業」的な経営体質から脱却し、時代の変化と地域や社会のニーズを捉えた新たなビジネスモデルの展開が求められている。今年度は「新しい建設業のかたち」をテーマに、有識者等による講演及びパネルディスカッション、懇親会を通じて、研修会参加者が、今後の経営戦略を考える上でのヒントを幅広い視点から探っていく。

日 時/平成25年2月4日(月)13:30~18:40
会 場/メルパルク東京 東京都港区芝公園2-5-20
対象者/中小建設業の経営者、経営後継者、経営幹部の方

>>詳細、お申し込みはこちら

 

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